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はじめに
VUCAと呼ばれる先の読めない時代になり、転職や副業、独立は特別な選択ではなくなりました。終身雇用を前提に会社がキャリアを用意する時代から、一人ひとりが自らキャリアを描く時代へ。こうした流れの中で、「キャリア自律」という言葉を耳にする機会が増えています。
書籍やWebを探せば、キャリア自律を促すためのハウツーはたくさん見つかります。キャリア研修の設計方法、1on1での問いかけ、社内公募制度の導入など、手法の情報には事欠きません。
しかし、NEWONEがこれまで600社を超える企業様のご支援をしてきた中で感じるのは、「そもそも自社にとってのキャリア自律とは何か」が定まっていないまま施策が始まっているケースが少なくないということです。定義が曖昧なままでは、施策の狙いがぶれ、効果も測れません。
本記事では、キャリア自律が求められる背景と代表的な定義を整理したうえで、NEWONEの支援事例から「自社にとってのキャリア自律」を考えるヒントをご紹介します。
キャリア自律が重視される背景
では、なぜ今これほどキャリア自律が重視されるのでしょうか。主な背景は次の3つです。

1. 労働人口の減少と生産性向上の必要性
日本の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年の8,726万人をピークに減少し、2020年には7,509万人となりました。2070年には4,535万人まで減ると推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、出生中位・死亡中位推計)。一方で、2024年の日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中28位にとどまっています(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」)。
限られた人数で成果を出すには、会社からの指示を待つのではなく、一人ひとりが自ら考え、能力を高め続けることが欠かせません。
2. 学び直しを促す政策の流れ
厚生労働省は2022年6月に「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定し、「労働者の自律的・主体的、そして継続的な学び・学び直しの促進が重要」と示しました(厚生労働省 学び・学び直し促進ガイドライン)。
職業人生が長くなる一方で、技術や事業の変化は速まっています。企業が用意する研修だけでは変化に追いつけず、個人が自ら学び、キャリアを更新し続けることが求められています。
3. 価値観・働き方の多様化と、企業と個人の関係の変化
転職や副業・兼業、独立が特別な選択ではなくなり、仕事と家庭、学び、地域活動などをどう組み合わせるかも人それぞれになりました。年齢ごとに決まったキャリアのレールを会社が用意する時代は終わりつつあります。
企業と個人は、「抱える・抱えられる」関係から「選び・選ばれる」関係へと変わりつつあります。この関係の中で、企業が何をすべきかについては、キャリア自律した社会において企業がすべきこともあわせてご覧ください。
では、そもそもキャリア自律とは何を指すのでしょうか。代表的な定義から整理してみましょう。
そもそもキャリア自律とは?
日本で「キャリア自律」の定義としてよく引用されるのが、慶應義塾大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリーの花田光世氏らによる次の定義です。
めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む、(個人の)生涯に渡るコミットメント
出典:花田光世・宮地夕紀子・大木紀子(2003)「キャリア自律の新展開」『一橋ビジネスレビュー』51巻1号(労働政策研究・研修機構「JILPTリサーチアイ 第22回」より引用)
この定義には「変化を前提にすること」「自らキャリアを築き、学び続けること」「それを生涯にわたって続けること」という3つの要素が含まれています。
では、ここでいう「キャリア」とは何を指すのでしょうか。実はここに、大きく2つの捉え方があります。
1. 仕事(職業人生)としてのキャリア
厚生労働省の「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書(2002年)では、キャリアを「経歴」「経験」「発展」、さらには「関連した職務の連鎖」などと表現されるものと整理しています(厚生労働省 報告書要旨)。職業経験を通じて能力を蓄積していく過程としての捉え方です。
この立場に立つと、キャリア自律は「どんな仕事・役割を担い、どんな能力を身につけていくかを、自ら考えて行動すること」という意味になります。
2. 人生全体としてのキャリア
一方、キャリア研究で知られるドナルド・E・スーパーは、キャリアを「人が生涯を通じて担う、さまざまな役割の組み合わせと連なり」と捉えました(Super, 1980。原文 “the combination and sequence of roles played by a person during the course of a lifetime” を本記事にて翻訳)。職業人としての役割だけでなく、家庭人、市民、余暇を楽しむ人といった役割も含めた「ライフキャリア」の考え方です。
この立場に立つと、キャリア自律は「仕事も含め、自分がどう生きたいかを自ら選び取っていくこと」という意味に広がります。個人の価値観によってキャリアを自ら形づくるプロティアンキャリアの考え方も、こちらに近いものです。

このように、同じ「キャリア自律」という言葉でも、仕事に絞った話なのか、人生全体を含めた話なのかは、実は話し手によって異なります。
重要なのは「自社にとってのキャリア自律」を定義すること
キャリア自律に「唯一の正解」はありません。一般的な定義をそのまま使うのではなく、自社の言葉で定義することが、施策を進めるうえでの出発点です。

定義が曖昧なまま施策を始めると、次のようなことが起こりがちです。
- 施策の狙いがぶれる:研修、1on1、社内公募などがばらばらに実施され、つながらない
- 社員に伝わらない:「会社はもう面倒を見てくれないということか」と受け取られてしまう
- 効果が測れない:何がどうなれば成功なのかが決まらず、次の打ち手を考えられない
定義づくりでは、経営・人事・現場の管理職が対話しながら、次のような問いに答えていくことをおすすめします。
- なぜ今、自社にキャリア自律が必要なのか
- キャリアの範囲は、仕事に絞るのか、人生全体を含めるのか
- 社内での活躍を前提にするのか、社外での選択も認めるのか
- キャリア自律した社員は、どんな状態・行動をしているのか
- 会社は何を支援し、社員には何を期待するのか
定義が定まれば、「キャリア自律を促すと離職が増えるのではないか」といった社内の不安にも、自社の言葉で答えられるようになります(参考:「キャリア自律は離職につながる」にどう向き合うか)。
NEWONEの支援事例
実際に、各社は自社ならではの「キャリア自律」をどのように捉え、施策に落とし込んでいるのでしょうか。NEWONEがご支援した事例をご紹介します。
株式会社 YRK and様:「自立」と「自律」を自社の言葉で定義
HR部門が「自立・自律」の人材育成をミッションに掲げ、「自立」を自分で考えて実行すること、「自律」を自分で決めたこと・自分との約束を守ることと、自社の言葉で整理しています。多様な働き方を選べる人事制度への見直しにあわせ、ライフステージが変わる30歳前後と45〜50歳を対象にキャリア研修を実施しました。
受講者からは「キャリアについて考える時間が持ててすごく良かった」という声のほか、上長との関係性という新たな課題も見えてきました。
▶ 事例を読む:株式会社 YRK and様|事例紹介
株式会社デンソーソリューション様:管理職自身のキャリア自律から
キャリア自律のメッセージは発信していたものの、具体的な行動は現場の管理職任せになっていたことが課題でした。そこで、課長職を対象に手挙げ式で参加者を募り(約100名中35名が参加)、導入研修とフォローアップ研修の2回を約4カ月かけて実施しました。
研修後は、部下から「最近、これまでと雰囲気が変わって積極的に話しかけてくれるようになった」という声が届いたほか、参加者同士が自主的に情報交換を始めるなど、行動と関係性の変化が生まれています。
▶ 事例を読む:株式会社デンソーソリューション様|事例紹介
KOA株式会社様:「権利」と「責任」を両立するキャリア研修
30歳前後の社員が「何年後にリーダーになる」といった垂直型のキャリア観に偏りがちなことが課題でした。キャリアを考える「権利」と、今任されている仕事をやりきる「責任」の両立を重視し、部門を越えたグループで会社の課題解決に取り組むプロジェクト型の研修を実施しています。
会社全体の課題を考える視点や、部門を越えた同世代のつながりが生まれ、キャリアを柔軟に捉えてチャレンジする意識が育まれています。
▶ 事例を読む:KOA株式会社様|事例紹介
3社に共通するのは、一般的なキャリア自律の定義をそのまま使うのではなく、自社の課題や制度に合わせて「何を目指すのか」を定め、対象者と施策を設計している点です。
まとめ
「キャリア自律」は、今や多くの企業が掲げるキーワードです。しかし、その中身は仕事に絞った話なのか、人生全体を含めた話なのかによって大きく変わります。
だからこそ、ハウツーを取り入れる前に「自社にとってのキャリア自律とは何か」を問い直すことが、施策を成果につなげる近道です。仕事に絞るのか、人生全体を含めるのか。自社の言葉で定義することで施策の狙いがそろい、社員にも届くメッセージになります。
キャリア自律は、社員を会社から切り離すものではありません。個人と組織が互いに選び合う、より良い関係をつくるための考え方です。NEWONEでは、自社にとってのキャリア自律の定義づくりから、研修の設計・実施、効果検証までを一貫してご支援しています。お気軽にご相談ください。
参考文献
- 花田光世・宮地夕紀子・大木紀子(2003)「キャリア自律の新展開」『一橋ビジネスレビュー』51巻1号
- 労働政策研究・研修機構「JILPTリサーチアイ 第22回 社員の『キャリア自律』を進める企業とその取り組み」(藤本真、2017年10月13日)
- 厚生労働省「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書要旨(2002年7月31日)
- Super, D. E. (1980). A life-span, life-space approach to career development. Journal of Vocational Behavior, 16(3), 282–298.
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(2023年4月26日)
- 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」(2025年12月22日)
- 厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」(2022年6月)
