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人や組織の課題がますます経営と切り離せなくなっている今、人事は「研修屋」「採用屋」になっていませんか?
目の前の採用を成功させる。研修を企画・実施する。制度を整える。
もちろん、1つひとつが人事にとって重要な仕事です。
一方で、その施策が「事業や組織をどう良くするのか」までとらえられているでしょうか。
本メソッドでは、ポラス株式会社 人事部長 兼 ポラテック株式会社 監査役 兼 人語会 代表、山田進太郎D&I財団 顧問の石田茂氏をゲストに迎え、
法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔氏、弊社代表 上林周平とのディスカッションから得られた示唆をもとに、「経営に資する人事」になるために、日々どのような視点を持ち、どのようなアクションを起こせばよいのかを紐解きます。
本記事は、特に以下のような方におすすめです。
・目の前の人事施策を回すことに精一杯になっていると感じる方
・人事施策を、より経営・事業と連動させていきたい方
・経営からの依頼に応えるだけではなく、人事側から課題提起できるようになりたい方
・「経営に資する人事」のために、具体的に何をすればよいのかヒントを得たい方
※本内容は、2026年10月14日実施セミナー「【NEWONE TALK Vol.16】経営に資する人事になるための思考とアクション ~30年の人事キャリアと人語会など越境コミュニティから見た人事のあり方~」の内容をまとめたものです。
「人事施策を行う人事」から「事業を動かす人事」へ
人事の仕事には、採用、育成、制度設計、労務など、さまざまな役割があります。
しかし、「経営に資する」という観点で考えると、それぞれの施策を実行すること自体がゴールではありません。
石田氏によると、採用業務を担当していた頃は「採用屋」、その後は「研修屋」になりかけていたといいます。しかし現場と向き合う中で、採用から育成、定着、さらにその後の活躍までをつなげて考えることが、人事の責任であるととらえるように変化したようです。
つまり、「どんな研修をするか」ではなく、「事業のために、なぜこの研修が必要なのか」。
「何人採用するか」ではなく、「採用した人が、その後どのように活躍するのか」。
人事の仕事そのものを起点に考えるのではなく、その仕事によって事業・組織にどのような変化を生み出したいのかまで視野を広げることが重要です。
さらに、人事だけでなくコーポレート部門にも事業KPIを組み込み、事業の数字を背負うことで、各部門の会話も「事業ベース」に変わっていったといいます。
「人事として何をするか」ではなく、「事業を前に進めるために、人事として何ができるか」。
まずは、この問いへの転換が「経営に資する人事」への出発点になります。
起点となるのは、自社の「リアルな課題」
では、事業を前に進めるために、人事は何を見る必要があるのでしょうか。
1つのポイントとなるのが、自社の現場で実際に起きていることをつかむことです。
人事施策を検討するとき、他社事例や世の中のトレンドから考え始めることもあるかもしれません。
しかし、同じ制度や施策であっても、会社によって事業環境や組織の状況は異なります。
だからこそ重要なのは、
「いま、自社の事業・現場で何が起きているのか?」
「事業を進めるうえで、人・組織の何が壁になっているのか?」
という自社固有の課題を見ることです。
人事制度を見直した際には、実際に現場へ足を運び、そこで起きていることをとらえながら制度変更の必要性を経営へ訴えていったといいます。さらに、他社の制度を調べる際も、制度そのものではなく、その制度が実際にどのような事業上のインパクトを生んでいるのかを重視していました。
他社がやっている施策をそのまま取り入れるのではなく、自社の事業と現場にとって本当に必要な打ち手は何かを考える。経営に資する人事への転換は、まず自社の「リアル」を知ることから始まります。
経営から「言われて動く人事」をどう抜け出すか
そして、現場のリアルな課題が見えてきたら、次に必要になるのが人事としての仮説を持つことです。
ここで1つ、問いが生まれます。
人事は、経営から課題を与えられてから動く存在でよいのでしょうか。
石田氏によると、ご自身は「CEOに先手を打たれない」ことを意識してきたといいます。
経営者が人事へ仕事を「発注」し、人事が「受注」するのではなく、人事から課題を上げ、経営がそれを判断するような関係です。
そのためには、現場で得た情報を単に報告するだけでは不十分です。
何が起きているのか。
なぜ起きているのか。
このままでは何が起こるのか。
人・組織の観点から、どこに手を打つべきなのか。
こうした問いに対して、人事なりの仮説を持つ。
つまり、「経営から答えをもらう人事」から、「経営に問いを投げる人事」へ変わっていくことが重要になります。
「制度をつくる」だけでは、組織は変わらない
もう1つ重要なのが、制度や施策をつくることと、現場が変わることを分けて考えることです。
たとえば、研修を実施した。新しい制度を導入した。採用目標を達成した。
もちろん、どれも重要です。
しかし、本当に目指したいのはその先にある、現場の行動や事業・組織の変化ではないでしょうか。
ここで重要になるのが、制度で縛るのではなく、運用と対話によって変化をつくることです。
人事だけで基準をつくり、現場に運用を任せるのではありません。基準そのものを現場とともにつくり、運用しながらより良い形へ更新していく。
今回の講演でも、こうした考え方が示されています。
人事だけで正解をつくり、それを現場へ渡すのではない。
現場と一緒に考え、動かしながら、自社にとってのより良い答えへ更新していく。
そこまで関わることで、人事施策は単なる「制度」ではなく、事業や組織を変えていく手段になっていきます。
人事自身も、社外との接点から「自社の当たり前」を問い直す
一方で、自社のリアルを見るだけでは、気づきにくいこともあります。
同じ組織に長くいるほど、その組織の考え方や仕事の進め方を「当たり前」ととらえ、自社の中だけではその前提を疑いにくくなることもあるからです。
変革を起こしていくためには、こうした「当たり前」に気づき、ときに問い直していくことが必要になります。
パネルディスカッションでは、「社内の常識にとらわれず、変革を起こし続けるために何が必要なのか」というテーマについて、次のようなやり取りがありました。
上林「常識を覆し、さまざまな変革を起こし続けられる源泉は、どこにあるのでしょうか?」
石田氏「社外で人事や経営者の方々と関わることで、自社の中に取り込まれないようにしてきました。アウトサイダーとしての立ち位置を保ち、社内の常識に抗う。そのためにも、早い時期から異業種交流など、外との接点を自らつくってきました。」
田中氏「組織の中に腰を据えて働いていても、越境して外から吸収することはできます。異動や転職をしなければ新しいものを得られないわけではなく、工夫次第で外との接点をつくることはできます。」
このやり取りから見えてくるのは、「越境すること」そのものが目的なのではないということです。
社外の人事や経営者と接することで、これまで自社の中で当然だと思っていた考え方を、別の角度から見つめ直すことができる。
つまり、外を見ることで、自社を見る。
「他社ではどうしているのか」という事例収集だけではなく、
「自社では当たり前だけれど、本当にこれは当たり前なのか?」
という問いを持ち帰ることが重要です。
そして、その問いを自社の現場に持ち帰ることで、これまでのやり方をそのまま踏襲するのではなく、自社にとってより良い選択肢を考えられるようになる。
外から新しい視点を取り入れ、自社のリアルと照らし合わせ、これまでの前提を問い直していく。
この往復を続けることが、自社の「当たり前」にとらわれず、人事が変革を生み出し続けるための1つの源泉になるのではないでしょうか。
セミナーアンケート(一部抜粋)
・長期的な視点で人事を経営視点で考えることの重要性を感じた
・怒りと愛情をもって人事の立場から会社を変革させるというメッセージに共感しました
・どこの世界にも壁がある。それを乗り越える方策は必ずあるんだという事を再認識しました
・人事の機能は気を抜くと既存の制度をつつがなく回し続けるだけということに陥りがちな中、いかに価値を発揮し続けるのかという視点で多くの学びがありました
登壇者の声
今回のNEWONE TALKでは、石田氏の30年にわたる実践から、「経営に資する人事」の意味を改めて考えさせられました。
特に印象的だったのは、「CEOに先手を打たれない」という言葉です。
経営に寄り添うことと、経営に従うことは違う。
むしろ、経営者がまだ気づいていない課題を見つけ、時には波風を立ててでも変革を起こすことが、人事の重要な役割なのだと感じました。
そのためには、現場のリアルを知ると同時に、社外へ越境し、自社の常識を疑い続けることも欠かせません。
人事は経営の支援者ではなく、経営を前に進める当事者である。
その覚悟を改めて考える時間となりました。
まとめ
人事が経営の基盤となるために重要なのは、「人事として何をするか」ではなく、「事業を前に進めるために何ができるか」という視点を持つことです。
自社のリアルな課題をとらえ、人事なりの仮説を経営へ投げかけ、現場との対話を通じて変化につなげる。
また、社外との接点から自社の「当たり前」を問い直す。
こうした積み重ねが、人事を施策の実行者から、組織の「変革起点」をつくる存在へと変えていくのではないでしょうか。
