
「言われたことはできるが、自分から動けない」 「正解が分からないと手が止まってしまう」 「何度も確認しないと不安そうにしている」近年、新入社員育成の現場では、このような声をいただく機会が増えています。
背景には、AIの普及による仕事の変化や、試行錯誤を通じて学ぶ機会の減少などがあります。これからの時代に求められるのは、「正解を探す力」ではなく、「正解のない状況でも仮説を持って考え、一歩踏み出す力」です。
本メソッドでは、その土台となる「曖昧さ耐性」に着目し、AI時代の新人育成に求められる考え方と、育成設計のポイントについてお伝えします。
本記事は次のような方におすすめです。
- 新人が「指示待ち」状態になることへ課題を感じているトレーナー・上司の方
- 主体性や自ら考える力を育てたい人事担当の方
- 時代背景に合わせて新人研修の見直しを検討している方
近年の新人傾向
「指示が抽象的だと行動できない」「白黒を早くつけようとし、曖昧なままにいることにストレスを感じる」といった、いわゆる「曖昧さ耐性が低い」新人が増えているというご相談をいただきます。なぜこういった新人が増えているのでしょうか。
背景には、働き方改革による育成時間の減少、コンプライアンスや品質管理の厳格化による「失敗しながら学ぶ機会」の減少、そして学生時代から正解を求める学習環境などがあると考えられます。
「曖昧さ耐性」とは
曖昧さ耐性とは、「曖昧な状況を脅威としてとらえるか、それとも受容可能なものとしてとらえるか」という傾向を指します。
近年は「失敗しながら学ぶことが難しい時代」に突入しており、若手層ほど失敗への不安や周囲からの評価を気にする傾向が高いことも分かっています。その結果、「正解探し」に向かいやすい環境が生まれているのです。
脱・正解探しのためには周囲のかかわりも重要
正解探しの新人をつくりあげてしまうのは、新人本人以外が起因している場合も多くみられます。
例えば、
・「もっと主体的に動いて」と抽象的な指示だけを出す
・新人の考えを聞く前に答えを教えてしまう
・「ここまで教える必要はない」と考え、思考の観点を伝えない
といった周囲のかかわり方によっても強化される可能性があります。
曖昧さ耐性が十分に育っていない状態で「主体的に考えて」と伝えられても、新人は何を基準に考えれば良いのか分からず、かえって混乱してしまいます。
そのため、育成の場では答えを与えるのではなく、「何を重視したのか」「なぜそう考えたのか」といった思考のプロセスに目を向けることが重要です。
新人育成では、本人への働きかけだけでなく、上司やトレーナー、職場全体の育成環境も含めて見直していくことが求められています。
AI時代に求められる思考力・判断力とは
これまでの新人育成では、「仕事の進め方・報連相・ビジネスマナー」等の知識習得を重視するケースが多く見られました。 しかし配属後に問われるのは、知識そのものではなく、
「自分の状況に置き換えて考えられるか」「相手の期待をとらえられるか」という力です。
つまり新人育成も、「知識付与型」から「応用力育成型」への転換が求められています。
曖昧さ耐性を育てる3つのポイント
① 正解が一つではないケースを扱う
実際の職場では、状況や相手によって最適解は変わります。
そのため研修でも、「自分ならどう考えるか」 「なぜそう判断したのか」を考えるケース演習を取り入れることが
重要です。
② 思考や判断理由を言語化する
重要なのは答えそのものではなく、「何を重視したのか・どのように考えたのか・なぜその判断をしたのか」
を振り返ることです。
思考プロセスを言語化することで、自分の判断基準を認識できるようになります。
③ 帰納法的アプローチを活用する
帰納法的アプローチとは、複数の経験から共通項を導き出し、自分なりの原理原則(持論)を
形成する考え方です。
例えば、「上司確認が遅れて納期に間に合わなかった」「顧客への返信確認が遅れた」という複数の経験から、
「自分の作業時間だけでなく、相手の判断時間も含めて逆算する必要がある」という共通項を導き出します。
このように経験を抽象化し、別の場面に応用できる考え方へ変換することで、曖昧な状況でも自分なりの仮説を持って行動できるようになるのです。
セミナーアンケート(一部抜粋)
- 思考力・判断力の定義見直し等、時代に合わせてアップデートしていく必要があるとハッとさせられた
- 自分で仮説を立てて、正解を探しにいく、自分の頭と足を使った研修内容に変えていくような議論をしてみたいと思いました
- 研修での学びで終わるのではなく、現場でも継続してそのような行動ができるよう、現場と研修を切り離さずに研修設計をしたいと思った
登壇者の声
昔は組織の中に暗黙の正解がありました。
しかし多様性が進んだ今、その正解は人や環境によって異なります。
人事の方々との対話を通じて、新人の課題として語られる現象の多くが「曖昧さ耐性の低さ」で説明できることに気づきました。重要なのは、本人の思考力を疑うことではなく、思考の訓練機会をどうつくるかです。
だからこそ私は、経験から自分なりの判断軸を形成する帰納法的アプローチが、
これからの新人育成に必要だと考えています。
まとめ
近年、新人の「正解を知りたい」という傾向は、本人の資質だけでなく、社会環境や育成環境の変化によっても強まっています。しかし、変化が激しく正解のない時代に求められるのは、正解を待つことではなく、自ら仮説を立てて行動しながら学び続ける力です。
そのためには、新人本人への働きかけだけでなく、上司やトレーナーが答えを教えるのではなく思考プロセスを支援する関わり方へ転換していくことが重要です。
「曖昧さ耐性」を育てることは、単に不確実さに慣れることではありません。経験から学び、自分なりの判断軸を持ち、正解のない状況でも一歩踏み出せる人材を育てることにつながります。これからの新人育成には、知識を教えるだけではなく、「考え方を育てる」という視点がますます求められていくでしょう。
