
生成AIの進化によって、これまで人が担ってきたさまざまな業務を、AIに任せられるようになりました。
一方で、AIを導入し、使い方を覚えるだけでは、AIが持つ力を十分に引き出すことはできません。
これから求められるのは、AIを単なる「便利なツール」ではなく、仕事を任せ、フィードバックを重ねながら育て、ともに働く存在としてとらえることです。
本メソッドでは、Microsoft Asia Copilot & Microsoft 365 GTM Lead 加藤友哉氏をゲストにお迎えし、法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中研之輔氏、弊社代表 上林周平とのディスカッションから得られた示唆をもとに、AIを育てるとはどういうことなのか、そしてAIに実行を任せられるようになる中で、人は何を担い、どのようにAIとかかわる必要があるのかについて整理しています。
本記事は、特に以下のような方におすすめです。
・AIを活用しながら、人が価値を発揮できる働き方を模索している方
・AI時代に求められる人材育成のヒントを得たい方
・「AI時代に人事は何を変えるべきか」を経営・人事の視点から考えたい方
※本内容は、2026年9月16日実施セミナー「【NEWONE TALK Vol.15】ゲスト:マイクロソフト AI時代、「働く」はどう変わるのか ~Microsoftが語る次世代の働き方と、人が価値を発揮~」の内容をまとめたものです。
「使うAI」から「一緒に働くAI」へ
生成AIの活用は、すでに日常業務のさまざまな場面へ広がっています。たとえば、メールの要約や下書き、データの分析・可視化など、これまで人が時間をかけていた業務をAIに任せられるようになっています。
ただし、目指すべきはAIを導入することそのものではありません。重要なのは、AIによって作業時間を短縮するだけではなく、人間の思いを実現するスピードと質を高め、顧客や組織への価値提供を加速させることです。
これからのAIは、単発の指示に応えるだけではなく、組織の知見を活用し、自社や個人の文脈を踏まえながら仕事を担う存在へと変わっていきます。つまり、AIの位置づけは「使うAI」から「一緒に働くAI」へ変わり始めているのです。
組織の「知」をAIの競争力に変える
AIモデルが進化し、同じAIを多くの企業が使えるようになる中で、重要になるのは、AIそのものの性能だけではありません。自社固有の文脈や判断基準をAIに与え、自社にとってより良いアウトプットを出せる存在へと育てていくことが重要になります。
そのために、組織では次の3つの視点が求められます。
1.コントロール
「自社にとって何を良いアウトプットとするのか」という判断基準を組織側が持つことが重要です。AIを活用する際には、まず人が「何を良しとするのか」を明確にする必要があります。
2.能力
顧客情報、判断基準、価値観、成功・失敗事例など、自社固有の文脈や知見をAIが活用できるようにし、自社の状況を踏まえたアウトプットへ近づけていくことが大切です。
3.選択肢
特定のAIだけに依存せず、業務の目的や求める成果に応じて、適したAIを選択できる状態をつくることです。
これからのAIは性能の高いものを「選んで使う」だけではなく、自社にとって何が良いアウトプットなのかを伝え、対話やフィードバックを重ねながら「育てる」存在になっていきます。
AIに仕事を任せ、アウトプットを確認し、良かった点や修正点をフィードバックする。そして、その学びを次の仕事につなげていく。このプロセスは、人に仕事を任せ、経験とフィードバックを通じて成長を支援する「育成」と近しいものがあるのではないでしょうか。
実行はAI、判断は人
では、AIがさまざまな仕事を担うようになったとき、人には何が求められるのでしょうか。
AIが実行を担う領域が広がるほど、人に求められる役割は「作業すること」から「判断すること」へ移っていきます。AIの回答をそのまま採用するのではなく、本当に正しいのかを確かめ、顧客への価値につながるかを考え、最終的な結果に責任を持つことが人の役割です。
一方で、ここに1つ大きな問いが生まれます。
実行をAIに委ねられる時代に、人の「判断力」はどこで、どのように育つのでしょうか。
この問いに対して、パネルディスカッションでは田中氏と加藤氏の間で、AI時代における人の判断力の磨き方について、具体的なやりとりが交わされました。
法政大学 キャリアデザイン学部教授 田中 研之輔 氏
「『AIが人を奪う』という考え方は、すでに古くなりつつあります。いまや『AIと共に働く』ことが現実となり、AIも人も育てていく時代を迎えていると思います。判断力を磨くためのコツや日頃から実践されていることはありますか?」
Microsoft Asia Copilot & Microsoft 365 GTM Lead 加藤 友哉 氏
「判断までAIに委ねてしまっていると、私が思考しようとする力が弱くなっていくわけです。コミュニケーションも、AIとする時も人間とする時も一緒であって、我々が部下だとかチームメイトに指示する時と同様に要件を定義して、丁寧に伝えることが重要です。
また、管理職だけではなく、一人ひとりの従業員が、ある種マネージャーや経営者のような視点を持ち、当事者意識を持って指示を出すこと。そして、その成果に対しても自ら判断することが重要なのではないかと考えています。」
このやり取りからも、AIに「実行」を任せることと、「判断」までAIに任せることは異なることがわかります。 これまで人は、自ら情報を集め、考え、試行錯誤する中で判断力を磨いてきました。情報収集から分析、提案の作成までをAIに任せ、判断までもAIに委ねてしまえば、人は自ら考える機会を失ってしまいます。一方で、AIも人から良質なフィードバックを得られなくなるため、判断の質を高めにくくなります。
だからこそ、AIの価値を高めるためにも、人間自身が基本と専門性を磨き、AIが出した答えを疑い、自ら判断できる状態を保つことが欠かせません。
AIとの協働で「判断力」を磨く3つの実践
AIを活用しながら、人間の判断力も高めていくためには、人を育成するときと同じように、「仕事を任せる → アウトプットを確認・判断する → フィードバックして振り返る」というサイクルを繰り返すことが重要です。
STEP1:目的と要件を具体化する
相手がAIであっても、人であっても、曖昧な依頼から良い成果は生まれません。
「何のために」「誰に」「どのような成果を求めるのか」を、自分自身が考えた上で、具体的に指示することが重要で
す。 AIとのコミュニケーションにおいても、人とのコミュニケーションと同様に、明確に要件を伝える力が求めら
れます。
STEP2:AIのアウトプットを「人」が判断する
AIが出した回答を、そのまま正解として受け取るのではなく、
・事実として正しいか
・前提は妥当か
・論理は通っているか
・顧客への価値につながるか
といった観点から確認します。
その上で、自分自身の判断によって「採用する・修正する・使わない」を決定するのです。
STEP3:AI自身に振り返りをさせる
AIが出したアウトプットに対して、人間がどこを修正したのかだけではなく、「なぜ修正したのか」をAIへ伝え、
AI自身にアウトプットを振り返ってもらいます。たとえば、
・私がどこを修正したのか
・なぜ修正したのか
・何が期待と異なっていたのか
・どのような観点が不足していたのか
・次回は何に注意してほしいのか
とAI自身に振り返らせることで、次回の仕事へ学びをつなげていきます。
つまり、AIは単に指示を出して使う「ツール」ではありません。人がフィードバックを重ねることで、自社や自分の文脈を踏まえたアウトプットに近づけていくことができます。
セミナーアンケート(一部抜粋)
- 「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIも人も育てる時代」という考え方に共感しました
- どの業務をAIに任せ、どの判断を人間が担うのか、責任や権限の範囲を明確にする必要があると感じています
- 人も社内AIも共に成長していく必要があると感じた
- AIによって人材ポートフォリオがどのように変化するかが気になっている
登壇者の声
今回のNEWONE TALKで特に印象に残ったのは、AIは「使うもの」から「育て、一緒に働く存在」へ変わっていくということです。AIに仕事を任せ、アウトプットを判断し、フィードバックする。これは、まさに部下を育てることと同じです。
そして面白いのは、AIを育てようとすると、「何が良いのか」「なぜ違うのか」を人間自身が考えざるを得ないこと。つまり、AIを育てることで、人も育つ。
AIに実行を任せながら、人は判断力や専門性を磨いていく。そんな新しい「人とAIの育成」のあり方が見えた、非常に刺激的な時間となりました。
まとめ
AI時代に重要なのは、AIにすべてを任せることではありません。AIに「実行」を任せ、人はそのアウトプットを「判断」し、フィードバックを重ねながらAIを育てていくことが求められます。そして、AIを育てるために「何が違うのか」「なぜ修正するのか」を考え、言語化することは、人自身の判断力を磨くことにもつながります。
「AIを育てる。そして、AIと働く中で人も育つ」
この関係をつくることが、AI時代に重要になるのではないでしょうか。
