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キャリア研修、1on1、キャリア面談、社内公募など、社員がキャリアを考える機会はここ数年で着実に増えてきました。一方で、「研修の満足度は高いのに、その後動いているのか分からない」「考える機会は増えたが、仕事での行動は変わっていない」という課題を抱える企業も少なくありません。
その背景にあるのは、キャリアについて「考えた」ことと、仕事での行動が「変わった」ことは、必ずしもイコールではないという点です。行動が変わるかどうかは本人の意識だけで決まるものではなく、本人を取り巻く環境や組織との関係性に大きく左右されるのです。
だからこそ、これからのキャリア開発では、社員にキャリアを考えてもらうだけでなく、一人ひとりがいまどのような「状態」にあるのかを捉え、その状態を一段ずつ引き上げていくことが大切です。
本記事では、弊社代表の上林と法政大学 キャリアデザイン学部 田中研之輔教授が共同開発した、20代〜60代の社員のキャリアの状態を可視化する「キャリアコンディションマップ」の考え方とセミナーでのディスカッションから得た示唆をもとに、キャリア施策が行動につながらない状況を解消するための考え方と、社員のレベルを引き上げるためのポイントを整理しています。
本記事は、特に以下のような方におすすめです。
- キャリア自律施策を実施しているものの、行動変容につながっている実感が持てない人事ご担当者様
- 年代別キャリア研修の目的や打ち手を見直したいとお考えのご担当者様
- 個人のキャリア自律を、組織の戦略や成果につなげたいと考えている方
※本内容は、2026年10月7日実施セミナー「キャリア開発の未来地図 ― 法政大学 田中研之輔教授と考える、20代〜60代『キャリアコンディションマップ』初公開」の内容をまとめたものです
「年代別」だけでは見えない、キャリアの“状態”
上記で述べたように、社員が自分のキャリアを考える機会は着実に増えています。
それでも、多くの企業の人事の方から聞かれるのが、研修の満足度は高くても、その後の行動変容までは見えないという声です。こうした状況は、社員の変化をどのように捉えるかを見直す必要があることを示しています。
ここで押さえておきたいのは、「自分のキャリアについて考えた」ことと「仕事での行動が変わった」ことは、イコールではないという点です。キャリアについて考える機会は、変化のきっかけにはなります。
しかし、考えた内容を実際の仕事で試し、周囲との関係を調整しながら行動を続けるには、本人の意識だけでなく、機会や役割、上司の支援といった環境も必要です。
だからこそ、「キャリアについて考えているか」だけではなく、「その人はいまどのような状態にあり、仕事でどのような行動をとっているのか」まで見ていく必要があります。
セミナー内では、田中教授が「AIの浸透によって仕事が個別化し、一人ひとりが孤立しやすくなっている」と話されていました。このように、働き方が個別化するほど、社員一人ひとりの状態は周囲から見えにくくなります。だからこそ、一人ひとりの状態を丁寧に捉え、チームとして育てていく視点が、これまで以上に重要になっているのです。
では、社員の状態はどのように捉えればよいのでしょうか。年代ごとにキャリア課題が異なるのは確かです。20代には20代の、40代にはマネジメントとスペシャリストに分かれていく40代ならではのテーマがあります。
一方で、同じ40代でも、職場環境や人によって状態は大きく異なります。「今の仕事を無難に続けたい」という人が大半の会社もあれば、「学び直しはしているものの仕事は変わっていない」「学びを起点に周囲を巻き込み、新しい取り組みを始めている」という人が多い会社もあるでしょう。
つまり、キャリア開発で重要なのは、年代別の視点に加えて「年代×現在の状態」で捉えることです。この問題意識から生まれたのが、20代〜60代の各年代について、キャリアの状態を4つのレベルで示した「キャリアコンディションマップ」になります。
キャリアコンディションマップの4つのレベル
年代だけでなく「現在の状態」まで捉える必要があるとしても、状態を感覚的な言葉だけで共有するのは簡単ではありません。なぜなら、人事担当者、部門責任者、現場マネージャーでは、同じ社員層を見ても認識が異なることがあるからです。
そこで、キャリアコンディションマップでは、年代ごとの特徴を踏まえながら、社員がキャリアをどのように捉え、どこまで行動に移し、その行動が組織とどうつながっているかを、次の4段階で整理します。
・レベル1:受身固定 ― 仕事やキャリアに受け身で、将来への不安を抱えている状態
・レベル2:認知先行 ― 知識を得て考え始めているが、行動の変化はまだ限定的な状態
・レベル3:行動開始 ― 挑戦や役割の変化、周囲への働きかけを経験し始めている状態
・レベル4:戦略接続 ― 自律的な行動が会社の戦略とつながり、組織の価値になっている状態

キャリアコンディションマップにおける状態レベルの4段階は、社員を一律に評価するためのものではありません。このマップの大きな役割は、人事や現場の間で現状認識をそろえる「共通言語」になることです。
同じ会社の中でも、20代と40代では状態が異なり、同じ年代の中でも複数のレベルが混在します。
人事担当者・人事部長・現場マネージャーの間で「うちはレベル1だ」「いや3だ」と認識がずれたままでは、施策の企画も進みません。「20代はレベル2が多い」「40代はレベル1で止まっている人が多い」といった捉え方を共有することが、施策検討のスタートラインになります。
しかし、マップで分かるのは、あくまで現状です。大切なのは、そこからどう引き上げていくかです。では、レベルを引き上げるには、どうすればよいのでしょうか。
レベルを引き上げる「3つの壁」と見直しのポイント
キャリアコンディションマップで現状を整理すると、「どの年代が、どのレベルに多いのか」は見えやすくなります。しかし、マップはあくまで現在地を確かめるためのものです。
人間ドックで結果を知るだけでは健康状態が変わらないのと同じように、キャリアの状態も、現在地を把握しただけでは次の段階へ進みません。そのため、社員がどこで止まっているのかを見極め、その要因に応じて働きかけを変えることが大切です。
しかし、レベルとレベルの間にはそれぞれ性質の異なる「壁」があり、壁の正体を見誤ると、施策を重ねても状態は変わらないという難しさがあります。受け身の状態から考え始めるまでには「認知の壁」、考えたことを実際の行動へ移すまでには「行動の壁」、自律的な行動を組織の価値へつなげるまでには「接続の壁」があります。
ここからは、3つの壁がなぜ生まれるのか、そして施策をどのように見直すべきかをご紹介していきます。
① レベル1→2:認知の壁
1つ目は、受け身の状態から、自分のキャリアについて考え始める状態へ進む際の壁です。
レベル1の社員は、目の前の仕事をこなすことで精一杯だったり、「キャリアは会社が決めるもの」と捉えていたりするため、そもそも自分のキャリアを主体的に考えるきっかけを持てていません。キャリア自律の必要性や、自分の強み・価値観に気づけていないことが、この壁の正体です。
見直しのポイント:この壁には、本人の認知を変えるアプローチが最も有効になります。キャリア研修やキャリア教育、自己理解の機会など、多くの企業が取り組んでいるアプローチはこの段階に対するアプローチとして有効です。しかし、同じ研修を繰り返してもレベル2で止まってしまうため、次の壁を見据えた設計が欠かせません。
② レベル2→3:行動の壁
2つ目は、キャリアについて考え始めた状態から、実際の行動に移す際の壁です。
レベル2の社員は、研修などを通じて「このままではいけない」「何か始めたい」という意識は持っています。しかし実際に行動に移す際に、「どんな機会があるのか見えない」「最初の一歩が大きすぎる」「職場や上司がブレーキになる」といった障壁にぶつかります。つまり、行動を阻んでいるのは本人の意欲や主体性だけではなく、行動を起こしにくい環境にあることが多いのです。
見直しのポイント:上記のようなブレーキを取り除くために、行動できる環境をつくることが鍵になります。制度をポータルに載せるだけでなくその場で見て選んでもらう、異動や公募の前に“小さく試せる”段階をつくる、送り出す上司側の後押しを仕組み化する、といった観点で、公募・1on1・キャリア面談など「行動するための決断ができる」施策を機能させていくことが重要です。
田中教授は、1on1について次のように語っています。「1on1は本来、人に寄り添うこと自体が目的ではなく、本人の成長やチームへの貢献、パフォーマンスにつなげるためのものである」。つまり、1on1やキャリア面談も、本人の想いを聞いて終わるのではなく、次の行動へとつなげる場として設計し直すことが、行動の壁を越えるポイントになります。
③ レベル3→4:接続の壁
3つ目は、自律的に行動し始めた状態から、その行動が組織の価値につながる状態へ進む際の壁です。
レベル3の社員は、新しいことに挑戦したり、周囲を巻き込んだりと、すでに自ら動き始めています。しかし、その行動が会社の向かう方向とつながっていなければ、個人の頑張りにとどまり、組織の成果にはつながりません。背景には、会社の方向性が見えない、自分と会社の接点が見いだせない、強みを活かす場がない、といった要因があります。こうした状態が続くと、活躍の場を社外に求めることにもつながりかねません。
見直しのポイント:個人の挑戦を組織の価値へつなぐ3つのアプローチが重要です。
1つ目は、組織側が、この会社で活躍している姿を具体的に見える化することです。これは、目指す人物像を具体化し、周知することで、社員自身が活躍しているイメージを持ちやすい状態をつくることです。
2つ目は、理念や戦略を“腹落ち”させることです。「会社の方向性が見えない」「会社との接点が見いだせない」という壁に対しては、会社の未来や組織目標を「自分ごと」として捉え、腹落ちしてもらうことが重要です。
最後の3つ目は、強みが活きる「役割」をつくることです。そのためには、キャリア面談を「何がしたいか」だけでなく、「会社の方向性の中でどんな役割を担いたいか」を問う場にすることで、強みが活きる役割を課題起点でつくることができます。

3つの壁を見てみると、レベル1から2へは本人への働きかけで進みやすい一方で、レベルが上がるほど、本人だけでなく会社側の施策との連動が欠かせなくなることが分かります。田中教授は、人事・人材開発にかかわる方々が、会社側が壁になっている課題に向き合い、組織を動かしていく主体となる重要なポジションであると語っています。
このように、組織全体への働きかけが必要となる施策を検討する前に、自社の社員がいまどのレベルにいて、どの壁で止まっているのかを、キャリアコンディションマップを通じて人事と現場で共有することが重要です。
セミナーアンケート(一部抜粋)
・”キャリアマップは作成していないので検討をしたいと思った。年代別のしっかりとした目的や課題を可視化することが重要だと感じた”
・人事領域において、どうしても各工程が分断されていたが、何を指標・基準と置くべきかの指針になった
・「キャリア教育」「主体性強化」という表層的な段階付けに限界を感じていたため、年代別×深度別の状況マップにまとめられたのは、大変分かりやすいと感じました
・キャリア開発は本社と現場が一体となってやっていくことの重要性。行動変容の先を見据えることの必要性が学べました
登壇者の声
今回のセミナーでは、田中研之輔先生とともに、キャリア自律支援を「考える機会」から「行動と組織成果につなげる仕組み」へ進化させるための議論を行いました。特にお伝えしたかったのは、キャリア自律を阻んでいるのは、本人の意識だけではなく、会社側の環境かもしれないということです。年代だけでなく「今の状態」を捉え、行動できる環境をつくり、個人のWillと組織の方向性をつなぐ。今回初公開した「キャリアコンディションマップ」が、皆さまのキャリア施策を見直すきっかけになれば幸いです。
まとめ
ここまで見てきたように、キャリア施策が行動や組織成果につながらない背景には、社員本人の意識だけでは説明できない複数の要因があります。そのため、年代ごとの課題を押さえること、現在の状態を見極めること、そして状態に応じて本人への働きかけと組織側の環境整備を組み合わせることが重要となります。
これからのキャリア開発においては、考えた人を動かすには環境が、動き始めた人を組織価値につなぐには役割が必要です。その第一歩として、キャリアコンディションマップで自社の現状を人事の共通言語にすることから始めてみてはいかがでしょうか。
キャリアコンディションマップは、ご希望の方にオンラインでご説明しながらお渡ししております。
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