
最近、新入社員研修についてのご相談で、よく耳にする言葉があります。
「正解探しな新人」と「主体性」です。
「正解や具体的な指示がないと動けない」という現状への課題感がある一方で、「自分で考え、行動できる新人を育てたい」という理想の姿が語られます。
しかし、この2つの観点から新人育成を考える際に、私が最近疑問に思うことがあります。
それは、そもそも、正解探しをする新人の「何が問題なのか」ということです。
正解探しを課題として育成施策を打つ前に、その状態の何を問題と捉え、何のために変える必要があるのかを明確にする必要があります。
ここが曖昧なまま「もっと主体的に行動しよう」と伝えても、新入社員本人が「なぜ今のスタンスを変えないといけないのか」に腹落ちせず、行動変容につながらない可能性があります。
そこで本メソッドでは、正解探しをする新人の行動を解剖し、「正解探しだからこそ、生まれる主体性とは何か」を考えていきます。
そもそも、正解探し新人が探している「正解」とは?
新入社員に未経験の仕事や、少し難易度の高い仕事を任せたとき、次のような質問を受けることがあります。
- 「これって、どう進めればよいですか?」
- 「この進め方で合っていますか?」
- 「マニュアルとかないですか?」
こうした質問は、正解探しをする新人の典型的な行動として挙げられます。
では、新入社員は、なぜこのような質問をするのでしょうか。
新入社員が正解探しによって求めているものは、単なる答えではなく、「安心して次の工程に進むための材料」である場合があります。
例えば、「どう進めればよいですか?」という質問には、進め方がわからないという理由だけでなく、「間違った方法で進めて手戻りになることを避けたい」という思いがあるかもしれません。
また、「この進め方で合っていますか?」という質問には、「上司の期待に応えたい」「迷惑をかけたくない」という思いが隠れている可能性があります。
つまり、正解探しという行動の背景には、新入社員なりの守りたいもの・避けたいものがあると考えられます。
新人は、正解探しで何を守ろうとしているのか?
正解探しの行動を、本人が求めているものから整理すると、次のように考えられます。
| 欲しい正解 | 新人の行動例 | 守りたいもの | 避けたいもの |
|---|---|---|---|
| 方法 | 「マニュアルはありますか?」 | 正確さ・安心 | 手順の誤り・事故 |
| 方向性 | 「この進め方で合っていますか?」 | 期待に応えること・信頼 | 期待とのずれ・信頼の低下 |
| 裁量範囲 | 「どこまで自分で判断してよいですか?」 | 適切な判断・効率 | 独断による手戻り・過剰な確認 |
ここで注目したいのは、新人が守ろうとしている「正確さ」「信頼」「効率」などは、仕事で成果を出すうえでも重要なものだということです。
ただし、守ろうとしているものが適切であっても、そのための行動が適切とは限りません。
例えば、「ミスをしたくない」という思いから、上司に何度も確認する新人がいたとします。
その結果、ミスは防げるかもしれません。しかし、毎回上司の判断を待つ状態では、仕事が停滞し、上司の確認工数も増えてしまいます。
また、正解を教えてもらうことに慣れてしまうと、状況が変わった際に、自分で判断できないという問題も生じます。
つまり、正解探しの問題は、「正解を求めること」そのものではなく、「正解を教えてもらうことが、仕事を進めるための前提になっていること」ではないでしょうか。
上司が答えを知っているのであれば、最初から聞いたほうが効率的だと考える新人もいるでしょう。
しかし、仕事には必ずしも唯一の正解があるわけではありません。上司が示した方法が、すべての状況において最適とは限らないのです。
だからこそ、新人自身が「何を確認すべきか」「何を自分で判断すべきか」を考える必要があります。
例えば、
- 「ミスを防ぎたい」のであれば、正解を聞くだけでなく、自分でリスクを考える。
- 「効率よく進めたい」のであれば、毎回確認するのではなく、自分で判断できる材料を集める。
- 「期待に応えたい」のであれば、進め方だけでなく、仕事の目的や期待成果を確認する。
大切にしたいものは変えずに、その実現方法を変える。
これが、正解探しをする新人の主体性を引き出すうえで、重要な視点だと考えています。
正解探しだからこそ発揮できる主体性とは?
ここまでの内容を踏まえ、本メソッドでは、正解探しをする新人に求める主体性を、次のように定義します。
「自分が次の工程に進むために、何が明確になればよいのかを考え、必要な情報を自ら集め、仕事を前に進めること」
つまり、正解探しをやめることではありません。
正解を教えてもらうのを待つのではなく、自分が欲しい正解を明確にし、取りに行くことです。
そのために、新人には3つの行動を促します。
① 自分が欲しい正解を明確にする
「どうすればよいですか?」と漠然と聞くのではなく、「目的は理解できましたが、完成基準がわからないため確認したいです」と、自分が次の工程に進むために必要な情報を整理します。
② 必要な情報を自ら取りに行く
上司にすべての答えを求めるのではなく、自分で判断するために必要な情報を確認します。
例えば、「今回はスピードと品質のどちらを優先すべきでしょうか?」と判断基準を聞くことも、その一つです。
③ 集めた情報をもとに、自分で判断して進める
必要な情報が集まったら、自分なりの判断を持って行動します。
「A案が適切だと考えています。理由は○○です。まずはこちらで進めてもよいでしょうか?」と、自分の考えを添えて相談することもできます。
ここで大切なのは、上司に聞かないことではありません。
自分で判断するために、何を聞く必要があるのかを考えることです。
そして、人事・育成担当者の皆様に考えていただきたいのは、新人に「自分で考えよう」と伝えるだけで、こうした行動が生まれるのかということです。
例えば、研修の中で、曖昧な指示を受けた際に「何がわかれば次の工程に進めるのか」を考える演習を取り入れることも一つの方法です。
また、上司にも、目的や判断基準、本人に任せる範囲を明確にしながら、新人自身に必要な情報を考えさせる関わり方が求められます。
新人の主体性を育てるためには、本人の意識を変えるだけでなく、「自分で判断するために必要な情報を整理し、取りに行く」という行動を習慣化させることが重要です。
まとめ
「正解探しをする新人には主体性がない」と捉えると、育成の方向性は「正解を求めず、自分で考えさせること」になりがちです。
しかし、正解探しの背景には、「ミスを防ぎたい」「効率よく進めたい」「期待に応えたい」といった、新人なりの大切にしたいものがあると考えられます。
重要なのは、その価値観を肯定することでも、否定することでもありません。
その価値観を、仕事の成果につながる行動へ転換することです。
新人育成において大切なのは、正解探しをやめさせることではなく、正解の探し方を変えることです。
「正解を待つ人から、正解に近づくために自ら動く人へ。」
正解探しという新人の特性を理解し、それを主体性を引き出すための起点として活用することが、新人育成における一つのアプローチになると考えています。
飯田 桜" width="104" height="104">