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ネガティブな感情をなくすことが育成のゴールではない
近年、若手社員や中堅社員の育成において、「前向きに働くこと」や「主体的に挑戦すること」の重要性が語られる場面が増えています。一方で、実際の職場では、不安や迷い、失敗への恐れ、上司や周囲との関係性へのストレスなど、ネガティブな感情を抱えながら働いている社員も少なくありません。
従来の人材育成では、仕事や人間関係の捉え方を変えることで、気持ちを前向きに整えるアプローチが重視されてきました。もちろん、物事の見方を広げることは大切です。しかし、すべてのネガティブな気持ちをすぐに前向きに変えられるわけではありません。
むしろ、これからの育成において重要なのは、「ネガティブな気持ちをなくすこと」ではなく、「ネガティブな気持ちを抱えながらも、自分にとって大切な行動を選べること」です。
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心理的柔軟性が、行動を選び続ける力になる
この考え方は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)における「心理的柔軟性」の考え方と重なります。心理的柔軟性とは、不安や緊張、落ち込みなどの感情を無理に消そうとするのではなく、それらを抱えたまま、状況に応じて必要な行動を選択できる力です。
職場においても、成果を出す人は常に前向きな気持ちで働いているわけではありません。むしろ、「失敗したらどうしよう」「自信がない」「上司にどう思われるか不安」といった感情を持ちながらも、報告する、相談する、提案する、やり切るといった行動を選び続けています。
一方で、ネガティブな気持ちを悪いものとして扱いすぎると、社員は不安を感じる場面そのものを避けるようになります。難しい仕事を避ける、上司への相談を先延ばしにする、フィードバックを受け取らない、挑戦する前に諦める。こうした行動が積み重なると、本人の成長機会は狭まり、組織としても挑戦が生まれにくくなります。
人事・上司に求められるのは、感情を扱いながら行動を支えること
だからこそ、人事・育成担当者には、社員を単にポジティブにすることだけでなく、ネガティブな感情との付き合い方を学べる機会を設計することが求められます。
具体的には、研修や1on1の中で、「不安を感じること自体は自然である」と扱いながら、「そのうえで、どのような行動を選ぶことが本人の成長や仕事の目的につながるのか」を考える対話が重要です。感情を否定するのではなく、感情に飲み込まれすぎず、行動の選択肢を広げていく支援が必要になります。
また、上司側にも、部下のネガティブな感情をすぐに励ましたり、正論で修正したりするのではなく、一度受け止めたうえで、次の一歩を一緒に考える関わりが求められます。「不安に思うのは自然だと思う。そのうえで、まず何からやってみるか」といった対話が、部下の心理的柔軟性を育てるきっかけになります。
変化が激しく、正解が見えにくい時代において、常に前向きでいられる人だけが活躍するわけではありません。不安や葛藤を抱えながらも、自分にとって大切な行動を選び続けられる人が、長期的に成長していきます。
ネガティブな気持ちをなくすことを目指すのではなく、ネガティブな気持ちと共に働ける力を育てること。これからの人材育成において、心理的柔軟性を高める関わりは、社員の主体性や挑戦を支える重要な土台になるのではないでしょうか。
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