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AI時代、「置いていかれない努力」をしていないか
AIの進化によって、私たちの働き方やキャリアは大きく変わろうとしています。
最近よく耳にするのは、「AIに仕事を奪われないためにはどうするか」「AIを使いこなせる人材にならなければ取り残される」といった議論です。確かに技術の変化に適応することは大切です。しかし気づけば私たちは、「置いていかれないように走り続ける」こと自体を目的にしてしまっていないでしょうか。
一度、少し視点を引いて考えてみると面白いことに気づきます。
私たちは普段、「もっと成長しなければ」「もっと上に行かなければ」と考えがちです。しかし歴史を振り返れば、人類の生活は確実に豊かになっています。例えば江戸時代の将軍は、その時代の頂点に立つ存在でした。それでも、安全な家で眠れ、おいしい食事があり、江戸から駿府までの距離を一刻ほどで移動できる今の生活を考えれば、現代の私たちの暮らしの方がはるかに恵まれています。極端な言い方をすれば、大昔の時代のトップである将軍よりも、今の会社の1年目の私たちの方が裕福な暮らしをしているとも言えるかもしれません。
それでも私たちが「まだ足りない」「もっと上に行かなければ」と感じ続けてしまうのはなぜでしょうか。
その背景には、他者との比較があります。自分の状況を他人との位置関係の中で測ろうとすると、どれほど生活環境が豊かになっても、常に「自分より上の誰か」が見えてしまいます。上を見ればきりがなく、隣の芝生は青く見える。すると、「今のままではいけない」「置いていかれるかもしれない」という感覚が生まれます。
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問題は「比較」ではなく「動機」
しかしここで大事なのは、比較そのものを否定することではありません。
私たちはこれからも学び、変化に適応し、成長していくでしょう。AIもきっと使いこなしていくはずです。問題は、そのときの動機です。「置いていかれないために頑張る」のか。それとも「自分の可能性が広がるから挑戦する」のか。同じ行動でも、その出発点が変わると意味は大きく変わります。不安から動くと変化は脅威になりますが、可能性から動くと変化はチャンスになります。
AIもまた同じです。
AIに追いつくために使うのではなく、自分の暮らしや表現の幅を広げるために使う。そう考えたとき、AIは脅威ではなく、新しい可能性を開く道具として見えてきます。
実際、この数年で私たちができることは大きく広がりました。こんな絵を描きたい、こんな音楽を作りたいと思えば、個人でも形にできるようになりました。自分が伝えたいことを言葉にすれば、AIが整理してスライドにまとめてくれることもあります。これまで専門的なスキルが必要だったことが、個人でも試せるようになってきています。AIは「人に勝つための道具」というよりも、「自分の表現できる世界を広げてくれる道具」と捉えることができるのです。
自分は何を大切にして働きたいのか
そう考えると、AIを使う動機も変わってきます。
「置いていかれないために使う」のではなく、「自分がやりたいことを表現するために使う」。この視点の違いは小さなようでいて、大きな意味を持ちます。
そこで重要になるのが、自分自身の軸です。
他者と比べて自分がどこにいるかではなく、「自分は何を大切にしているのか」「自分は何を表現したいのか」という問いを持てているかどうかです。
そのヒントは、これまでの経験の中にあります。どんな仕事に意味を感じたのか、どんな瞬間に面白さを感じたのか。過去の経験を振り返ると、自分の行動の中にある一貫した価値観が見えてくることがあります。
ただし、こうした価値観は一人で考えているだけでは見つけにくいものです。誰かとの対話の中で経験を言葉にしたり、さまざまな選択肢に触れながら「自分はどちらを選びたいのか」を問い続けたりすることで、少しずつ輪郭が見えてきます。
だからこそ、研修には意味があります。
研修は単なるスキル習得の場ではなく、自分の経験を振り返り、他者との対話を通じて「自分は何を大切にしているのか」を言語化する場でもあります。
AI時代において重要なのは、「取り残されないこと」を目的に働くことではありません。
自分が何を大切にしたいのか、自分は何を表現したいのか。その軸を持つことで、AIは脅威ではなく、自分の可能性を広げるパートナーになります。
比較ではなく意味づけの視点を持つこと。
それが、AI時代の豊かさを実感するための出発点になると思います。
小関 一矢" width="104" height="104">