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経営候補人材は採用すべきか、育成すべきか?人事が担うサクセッションプランの設計と実践

経営候補人材は採用すべきか、育成すべきか?人事が担うサクセッションプランの設計と実践

<a href= 瀬口 航生" width="104" height="104">

株式会社NEWONEに新卒入社。人材育成・組織開発のHRパートナーとして、研修設計・運営を中心に幅広い層の成長支援に携わる。新入社員・若手から管理職層まで、各階層の課題に応じたプログラムを企画・実施し、組織全体のパフォーマンス向上を支援している。
社内では組織開発の一環として、エンゲージメント向上を目的としたイベントの企画・運営にも取り組んでいる。

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「経営候補人材は、採用すべきか。それとも育成すべきか。」
経営人材をめぐる議論の中で、こうした問いに直面したことのある方も多いのではないでしょうか。

このテーマは以前から語られてきましたが、事業環境の変化が激しさを増すなかで、その難易度は一段と高まっています。外部採用への期待が高まる一方で、内部育成の時間は限られ、どこから手を付けるべきか判断に迷う場面も少なくありません。その結果、「採るか、育てるか」という二項対立に議論が収まり、本来考えるべき前提が曖昧になってしまうケースもあります。

本記事では、「採るか、育てるか」をすぐに決めるのではなく、その判断の軸となる前提条件を明らかにしていきます。経営候補人材に求められる要件の考え方、採用と育成それぞれの留意点、そして成長を促す経験設計のあり方をひもときながら、人事として押さえておきたいポイントをお伝えします。

(※本内容は、2025年11月実施セミナーの内容をもとに構成しています)

こんな方におすすめ

  • 経営候補人材の選抜・育成に課題意識を持つ人事・企画部門の方
  • サクセッションプランの見直しや再設計を検討している方
  • 採用と育成のバランスに悩んでいる経営・マネジメント層の方

経営候補人材を「採るか、育てるか」を考える前に整理すべき前提

経営候補人材をめぐる議論では、「採用すべきか、育成すべきか」という二項対立に陥りがちです。しかし実務の現場では、その問い自体が少し早すぎることが多くあります。重要なのはまず、自社にとってどのような経営候補人材が必要なのかを、構造的に言語化できているかという点です。

サクセッションプランとは、単に後継者を決める仕組みではありません。戦略上のキーポストを特定し、そのポストに対して誰を、どのように選抜し、どう育て、どう評価し、どう配置するのか。この一連を中長期で回し続ける人材マネジメントのPDCAそのものです。

※サクセッションプラン:
企業の重要ポスト(経営トップや幹部など)の後継者を計画的に見極め、育成・配置するための一連の戦略的な計画

経営候補人材の要件は「今」と「未来」の二軸で考える

経営候補人材の要件定義が難しい理由は、現在の課題対応と、未来を見据えた変革期待が混在するからです。そこで有効なのが、「いま自社に必要な人材」と「未来に必要となりそうな人材」をあえて分けて考える視点です。

この2軸を整理する際の主な観点は、以下の4つに集約されます。

  • 事業の成熟度・業界特性
  • 企業規模
  • 組織文化・風土
  • 組織における権力構造の源泉

たとえば、安定・成熟フェーズにある事業では、社内の暗黙知や独自のやり方を体得してきた内部人材が重視されやすくなります。一方で、変革や探索が求められるフェーズでは、外部からの知見や異なる発想を持つ人材が必要になる場面も増えてきます。

ここで大切なのは、採用か育成かを先に決めることではなく、自社の事業環境と組織特性を踏まえたうえで、どのような人材像が妥当なのかを描くことです。

採用する場合は「オンボーディング」まで含めて設計する

サクセッションプランの結果として外部登用が必要になるケースもあります。ただし、その場合に問題になりやすいのが「即戦力」という思い込みです。

中途入社者は経験者であるがゆえに、「すぐに結果を出せるはず」「自分で何とかできるだろう」と期待されがちです。しかし実際には、前職で培った知識ややり方を、現職に合わせてチューニングすることに強い負荷がかかります。暗黙のルールや文化、意思決定の癖、人間関係の築き方など、再適応が求められる領域は少なくありません。

だからこそ、外部から経営候補人材を迎える場合には、採用以上にオンボーディングの設計が重要になります。人事だけでなく、受け入れ上司や職場を含めて、「中途だからこそのサポートが必要」という共通認識を持てるかどうかが、定着と活躍を左右します。

育成の鍵は「経験」と「矛盾」の密度にある

では、内部育成の場合は何を重視すべきでしょうか。よく挙がるのは、社長室経験、複数部署での経験、海外赴任などです。これら自体が無意味なわけではありませんが、重要なのは肩書きや配置ではなく、その経験の質です。

経営候補人材の成長に欠かせないのは、「人の器の拡張」です。経営人材は、正解のない状況や利害の対立、矛盾をはらんだ意思決定に日常的に向き合うため、知識やスキルだけでは判断が立ち行かなくなる場面が多くあります。そのため、自分の価値観や前提を相対化し、複雑さを抱えたまま意思決定できる器の大きさが求められるのです。

成人発達理論では、人の器は二つの側面から捉えられます。一つは、知識やスキルを獲得し、できることを増やしていく「水平発達」、もう一つは、矛盾や対立に向き合い、自分なりの意思決定を重ねる中で、物事の捉え方そのものを広げていく「垂直発達」です。経営候補人材の育成においては、能力の拡張(水平発達)にとどまらず、こうした垂直発達をいかに促すかが重要になります。

経営人材には、顧客最前線で事業やお金に向き合う経験やオペレーションの現場で自社の強みと制約を知る経験、コーポレート領域で経営の仕組みを理解する経験など様々な経験が求められます。これらの経験の中で生じる対立や葛藤から逃げずに考え抜くプロセスが加わったとき、経営人材としての器は大きくなっていきます。

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「逃げない意思決定」を組み込んだ育成プランを描く

重要なのは、いたずらに多くの経験を積ませることではありません。対立や矛盾に直面し、自ら意思決定を下し、その結果と向き合う経験を、意図的に設計できているかどうかです。

実際には、数か月単位で内省と実践を繰り返す育成プログラムや、経営の意思決定プロセスに近いテーマを扱いながら、自分ならどう判断するかを考え続ける場を設けることで、垂直発達を促す取り組みも行われています。

サクセッションプランは、完成形を一度つくって終わりにするものではありません。事業環境や組織状況が変わり続ける中で、採用と育成のバランスを見直しながら、人材の器をどう拡張していくかを問い続ける営みです。

「採るか、育てるか」という問いの前に、「どのような経験と意思決定を通じて、どんな経営人材を育てたいのか」。その問いに向き合うことこそが、サクセッションプラン設計の出発点になります。

まとめ

本記事では、経営候補人材を「採るか、育てるか」という二項対立で捉えるのではなく、その前提として、どのような人材像を描くべきかを整理しました。サクセッションプランとは、後継者選定にとどまらず、選抜・育成・配置を中長期で回し続ける人材マネジメントの仕組みです。

また、採用においてはオンボーディングまで含めた設計が重要であり、育成においては経験の量ではなく、矛盾や対立に向き合い意思決定を引き受ける経験の質が、経営候補人材の成長を左右することを示しました。

本記事が、「採るか、育てるか」という問いの前に、「どのような経験と意思決定を通じて、どんな経営人材を育てたいのか」を考えるきっかけとなれば幸いです。

アンケートの声(一部抜粋)

  • サクセッションプランについて改めて体系的に整理することができた。 
  • 途中、中途採用者に関する情報があり、この課題についても改めて考えてみようと思った。
  •  経営者の素養が高い人がどのような要素を持っているかについて参考になった。
  • サクセッションプランに関する理解を深めることができました。ありがとうございました。

登壇者の声

組織の器は、その組織の長の器に規定されると言われています。能力成長だけではない内面的な成長をどのように作れるか、如何にして良質な問い、濃密な経験と向き合う場をデザインできるか、最後はその上での「経営視座に当たり前を書き換え自分事かを促す」ことが肝になります。完全にやれている企業様は中々多くない中ではありますが、少なくともインプットを増やせば器の拡張が起こるというものではないことは確かです。研修やワークショップのみならず、体験と問いという観点で、様々な施策をご検討頂けますと幸いです。