
弊社NEWONEは「推せる職場」を掲げ、エンゲージメント向上や働きがいのある組織づくりを追求しています。
その中で8月から始まった「NEWONE TALK」は、
人的資本経営・キャリア開発・組織文化・エンゲージメントなど、いま多くの企業が直面する課題をテーマに、“これからの働く”を探求する対話型オンラインセミナーシリーズです。
月に一度、NEWONE TALKを実施し、人事の皆様の内省に繋がる時間になればという想いをもとに実施しております。
NEWONE TALK 第4回のテーマは、「夢中になれる組織の作り方」です。
株式会社丸井グループの原田信也氏をゲストにお迎えし、
丸井グループが大切にしている“人を軸とした経営”の考え方や、社員一人ひとりが夢中になって働けるようにするための仕組み・文化づくりについて、具体的な事例を交えながらご紹介いただきました。
また、ゲスト講演後には、弊社代表の上林周平、そしてシリーズを通してモデレーターを務める法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏を交えて、パネルディスカッションを実施し、現場の実践知と経営・アカデミアの視点を掛け合わせながら、「夢中になれる組織」実現に向けたヒントを探って参ります。
※NEWONE TALK シリーズは、以下の内容で開催しています。
原田氏講演
企業文化変革の背景
丸井グループが「人を軸とした経営」へと大きく舵を切った背景には、7年間にわたる深刻な経営危機がありました。この苦しい時期を教訓に、同社は「イノベーションを創出し続ける企業」への変革を決意し、「企業価値の源泉となる見えない資本」として、人的資本に光を当て、組織文化と制度の同時改革に取り組み始めました。
企業文化変革と人事制度
変革の第一歩として掲げたのが、「お客さまのお役に立つために進化し続ける」そして「人の成長=企業の成長」という企業理念の明文化です。理念を土台に、制度や仕組みの大胆な見直しが進められました。
1.手挙げ制度の導入
改革初期から実施された象徴的な取り組みのひとつが、「手挙げ制度の導入」です。2008年の中期経営推進会議では、居眠りをする社員も見られ、経営への参画が受け身になっている現実が露呈しました。これを転機に、社員の主体性、自律性を重視し、自ら手を挙げて行動する社員を増やすべく、毎月1回、約1,000人が手を挙げ、その中から論文審査を通過した約300名が参加する“手挙げ制”の経営会議へと刷新されました。新社員からベテラン社員まで、誰もが応募できる仕組みとすることで、幅広い人材が主体的に参加できる環境を整えています。
2.人事制度の刷新
理念を具体的な行動へと繋げるために、人事制度の刷新も並行して進められました。
① グループ会社間職種変更異動
社員の成長を促進する仕組みとして、2-3年ごとのグループ会社間の異動を積極的に実施し、異動を通じて異なる職種やフィールドに挑戦できる環境を整えました。
② 二軸評価制度
職種変更の手挙げを促進し、挑戦を後押しするために、評価制度そのものも抜本的に再構築されました。
従来の成果中心の評価から、「チームの業績」と「社員の成長」という2つの軸に着目した新たな評価制度へと転換。特に、社員一人ひとりの「未来に向けた価値創出(=バリュー)」に注目し、それを360度評価で可視化する仕組みが導入されました。
この制度改定にあたっても、「手挙げ」による社内公募を活用して幅広く議論を重ね、現場の声を丁寧に取り入れながら制度設計を行いました。こうしたプロセスを経た制度変更は、社員の納得感と主体性を高め、結果的にワークエンゲージメントの向上にもつながっています。
フローを体験できる組織づくり
フローとは、心理学者チクセントミハイが提唱した概念で、人が 能力と挑戦のレベルが釣り合っている時にしばしば体験する、「時を忘れ、我を忘れて」没頭する状態のことを指します。人はフローを体験することで、創造力をフルに発揮することが出来、それによって高いハードルを乗り越え、成長することが出来ます。また、フローはその体験自体が「しあわせ」をもたらすともいいます。
丸井グループは、「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」というビジョンのもと、一人ひとりの創造力を全開にするため「仕事を通じてフローを体験できる」組織創りに取り組んでいます。事例として、今回は以下3つの取り組みをご紹介いただきました。
取り組み①:1on1
「1on1に良いイメージがない」「目指す姿がわからない」といった声を受け、丸井グループは1on1の再設計に取り組みました。希望者による「手挙げ制コーチング研修」や、実体験をもとにした漫画「まるいの1on1」を活用し、現場の理解と実践を広げています。
さらに、メンバーの発言量をKPIとして設定し、1か月のうち『1on1においてメンバーが話している総時間(分)』を研修効果のKPIのひとつとして設定し、24年度は3211分、25年8月時点は3510分を記録、25年度は3700分以上を目標としています。
取り組み②:フロープロジェクト
社員がより多くの時間をフロー状態で過ごせるよう、フロープロジェクトを立ち上げ、職場ごとに環境に応じた「フローの仮説と実験」を繰り返し、2031年までにフロー指標を60%に引き上げることを目標に活動を進めています。現場発の取り組みが多数生まれており、組織全体としてフローを促進する文化の醸成が進んでいます。
取り組み③:キャリア支援
社員一人ひとりの挑戦を支えるために、マネジャーによる支援体制も整備しています。グッドプラクティスの共有や、キャリアコンサルタント資格を持つ社員との1on1の導入、GM職による経験談の発信などを通じて、キャリアの選択肢や可能性を広げる後押しが行われています。
上記フロー体験創出のための取り組みは、EPSなどの業績指標にも一定の相関が見られる結果となっており、組織変革の実効性と意味を裏付けています。
パネルディスカッション
原田氏のご講演に続き、法政大学の田中研之輔教授と、弊社代表の上林周平を交えたパネルディスカッションでは、「夢中になれる組織の作り方」をさらに深掘りました。実践・経営・アカデミアの視点を交えて、特に印象的だった3つのトピックをご紹介します。
テーマ一覧
① 年齢とフローの意外な関係性
② 手挙げ文化の育て方
③ 「好き」を起点に変わる、これからの企業文化
① 年齢とフローの意外な関係性
一般的には年齢とともに挑戦意欲が下がるとイメージされる中、丸井グループでは50代社員のフローが1番高いという結果が見られています。原田氏は、「年齢を重ねること自体が挑戦を止めるのではなく、同じ仕事の繰り返しこそが挑戦を止めてしまう」と語ります。
これを受けて、田中氏は「経験を重ねるほど役割が固定され、挑戦の機会が減る構造が日本企業には多い」と指摘。上林も「上層の社員を活性化させるため、変化を生み出していくことが企業として大切」とコメントしました。
② 手挙げ文化の育て方
手挙げ文化は最初から根付いていたわけではありません。「文化を浸透させるにあたり、難しさもあったのでは?」という上林の問いかけに対し、原田氏は、「当初は一部の前向きな社員しか手を挙げなかった」と振り返ります。
「このままでは限られた人にしかチャンスが巡らないのでは」という声も上がる中、制度を押しつけず、自然な広がりを待つスタンスが取られました。
会社からの指示で参加するのではなく、前向きな社員が自ら手を挙げて会議・研修に参加するため、得た気づきをポジティブに職場に還元したことで、周囲にも挑戦の輪が広がりました。ほかにも、店長が応募に落選し、新社員が通過するという出来事がきっかけで、店長が新社員に論文の書き方を教わるなど、年次や役職を超えて挑戦を歓迎する空気が生まれました。こうした体験の積み重ねが、文化の変化につながったといいます。
③ 「好き」を起点に変わる、これからの企業文化
丸井グループでは現在、「企業文化2.0」として、安定や成果の中でもなおチャレンジを続ける文化を目指している最中です。その先にある「企業文化3.0」について、原田氏は「“好き”を軸にした自律的な働き方」がポイントになると語ります。
「努力は夢中に勝てない。」といった言葉の通り、好きなことに熱中する力こそが、自然な挑戦や成長につながると考えられています。実際に、好きを仕事に活かした取り組みは、集中して没頭できるフロー状態や、仕事への意欲を示すエンゲージメントの向上にもつながっていて、最近のデータからも、その効果が見え始めているとのことです。
今後は、社員の“好き”をAIなどで可視化し、配置や支援に活用する構想も進んでいます。テクノロジーと内発的動機の組み合わせが、次なる企業文化の形をつくる鍵になるという展望が示されました。
まとめ
手挙げ制度や1on1、キャリア支援など、ご紹介いただいた事例の通り、制度面の改革にとどまらず、社員一人ひとりや現場に寄り添った取り組みの数々が、今の丸井グループを形づくっているのではないでしょうか。今回のセミナーが、皆さまの人事施策や組織づくりのヒントになれば幸いです。
アンケート
- 全ての施策が戦略的に実行されており、感動しました。動機付けや指標の特定、そして定着させるための仕組み全てが参考になりました。
- 丸井グループ様の変革の取り組みを、具体的に工夫されたりご苦労された事例も含めてご説明いただき、大変参考になりました。また、田中先生のお話についても、シニア世代が抱えている課題や、手挙げ方式を進めていった先にある課題などをお示しいただき、今後の戦略を考える上で学びが多くありました。
- フロー体験と新しい業務への挑戦・転換が面白く、能力のピークを変えて、会社のカルチャーすら変えられるのではないかと思いました!とても参考になりました。
- エンゲージメント向上のためには、世の中の動きにあわせた制度改定の推進だけではなく、従業員も一緒になって主体的に動ける環境づくりを考えていくことが非常に重要であることがわかりました。
登壇者の声
丸井グループさんの「手挙げ文化」には以前から強い関心がありました。今回、その文化をつくるまでの試行錯誤や、社員の自発的な挑戦が業績向上につながった実例、そして次のテーマとして掲げる「フロー(夢中)を大事にする」考え方まで伺えたことは大変刺激的であり、多くの企業の“これから”に参考になればと思っております。
◆登壇者プロフィール

株式会社丸井グループ
人事部長
原田信也
1999年、丸井(現丸井グループ)に入社。
店舗で紳士服の販売、売場責任者を経験後、本社でエリアマネジャーや
プライベートブランドの商品開発、事業責任者を担当。
2021年より人材開発課長として人事部に移り、2024年より現職。
社員の「好き」を応援し、「フロー」を体験できる組織づくりに取り組む。

法政大学 キャリアデザイン学部 教授
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事
田中 研之輔
UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員
日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学。
一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。
専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を29社歴任。
個人投資家。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』
『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』
『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。
ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。
新刊『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。
最新刊に『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』
日経ビジネス 日経STYLE他メディア多数連載 プログラム開発・新規事業開発を得意とする。

株式会社NEWONE
代表取締役社長 上林 周平
大阪大学人間科学部卒業。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。
官公庁向けのBPRコンサルティング、独立行政法人の民営化戦略立案、
大規模システム開発・導入プロジェクトなどに従事。
2002年、シェイク入社。企業研修事業の立ち上げを実施。商品開発責任者として、
新入社員〜管理職までの研修プログラム開発やファシリテーションを実施。
2015年より、株式会社シェイク代表取締役に就任。
前年含め3年連続過去最高売上・最高益を達成。
2017年9月、これからの働き方をリードすることを目的に、
エンゲージメントを高める支援を行う株式会社NEWONEを設立。
米国CCE.Inc.認定 キャリアカウンセラー
書籍:「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」を2022年7月にアスコムより出版
書籍:『組織の未来は「従業員体験」で変わる』を2024年6月に英治出版より出版
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