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尾形真実哉先生から学ぶ、新人オンボーディングの成否を分ける要素とは?

尾形真実哉先生から学ぶ、新人オンボーディングの成否を分ける要素とは?

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著者

高藤 賢

著者

高藤 賢

株式会社NEWONEに新卒入社。研修をメインとして、人材育成・組織開発のHRパートナーとして従事。新入社員から管理職層まで幅広い階層を支援。社内では提案書の集約システムの構築、社内マニュアルの管理等、業務効率化に向けた仕組みづくりを行っている。

NEWONEでは、あらゆる企業のご希望やお悩みにあわせた
多種多様な研修を取り扱っております。

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4月に入社された新入社員は、貴社に“オンボーディング”できていますでしょうか?

・オンボーディングって最近よく耳にするけど実際に何をどう設計したらいいのかわからない
・変化に対応するべく、育成設計を見直したいが何から手を付けたら良いのかわからない
・配属ガチャ、上司ガチャの傾向が強く、職場によって新入社員が定着しづらい

等、さまざまなオンボーディング設計に関するお悩みの声を頂くことが増え、「どのような導入研修を実施するか」だけではなく、「配属後の育成(OJT)とどのように連動するか」という育成テーマに関心が高まっている企業様が多いと感じています。

今回はオンボーディング領域を研究されている尾形先生をお招きして、24年卒の新入社員のオンボーディングを成功させる育成設計のポイントをご紹介していきます。

(※本内容は、2024年6月20日に実施した「尾形真実哉先生 独占インタビュー!新人オンボーディングの成否を分ける要素とは?~24年度から活かせる職場定着のポイント~」セミナーの内容をまとめたものです)

現在の日本の労働環境

 今までは、「1つの場所で皆で」という働き方でしたが、テレワークの導入を経て「バラバラの場所で1人で」という働き方も増えてきました。特に若い人は自由な働き方を好む方が多く、テレワークは会社の魅力的な条件の1つになるので、積極的に導入することは良いことだと思っています。しかし、人材育成の観点では、テレワークはオフィスワークに比べてデメリットが多く、人材育成の難易度を高めた要因であると考えています。テレワークの普及によってコミュニケーションの取り方や信頼関係の構築が非常に難しくなってきており、若手の早期離職率も高まっています。このような状況の日本では、従業員は組織に馴染む力が求められますし、管理者あるいは組織は従業員を組織に馴染ませる力が求められています。組織に馴染ませる力がない会社は、優秀な人も来てくれないし、来てくれたとしてもすぐ出ていかれる、という人材流出企業になってしまいます。

組織になじませる力を身につける

 最近耳にすることも増えてきたかと思いますが、組織に馴染ませる力のことを「オンボーディング」と言います。オンボーディング支援をするにあたって重要な行動が3つあります。①情報を与えるインフォーム行動(コミュニケーション・リソース提供・研修実施等)、②迎えるウェルカム行動(既存社員と顔をわせる機会や場の設定)、③導くガイド行動(公式メンター割り当て等)です。新入社員のオンボーディングは何をすべきか考える前に、新入社員がどこで苦しんでいるかという「適応課題」を理解する必要があります。

新入社員の組織適応課題を理解する

 新入社員の組織適応課題を理解するにあたって、「リアリティ・ショック」という現象をご紹介します。これは、入社前に形成された期待やイメージが組織現実と異なっていた場合に生じる心理現象です。人によって課題の大きさは変わりますが、新人の組織コミットメントや組織社会化にネガティブな影響を与え、早期離職を引き起こします。このリアリティ・ショックが生じてしまうのは、入社前に非現実的で不正確な期待を抱いてしまうためです。なぜこのような期待を抱いてしまうのでしょうか。

入社前に非現実的で不正確な期待を抱いてしまう要因としては、採用過程における組織からの不正確な情報提供や、伝えるべき情報を伝えていないこと、若者たちの日常生活から形成される組織イメージなどが考えられます。

リアリティ・ショックを抑えるには、リアリティ・ショックの多面性を理解する必要があり、その多面性を3つの観点から説明していきます。

①対象の多面性

リアリティ・ショックを感受する対象として、組織ショック、同期同僚上司ショック、仕事ショック、評価ショック等があります。職業、会社、部署、個人によって異なるので、的確に捉えることは難しいですが、若者はどんなところにリアリティショックを持ちやすいのかと傾向を掴んでおくことが大事です。

②組織適応に及ぼす影響の多様性

 リアリティ・ショックは、パフォーマンスやスキル習得には直接的な影響を及ぼしません。そのため、傍から見ると問題なく仕事しているように見え、「リアリティ・ショックに直面していないんだ」と勘違いしてしまいます。しかし、会社への愛着や信頼は徐々に低下していくので、「突然辞めてしまう」という事態を引き起こします。本人からすれば突然のことではないので、しっかりとコミュニケーションをとって話を聞く必要があります。

③構造の多様性

 リアリティ・ショックにはあらゆる構造が存在します。「厳しさを期待していたら思っていたより緩かった」という期待のズレもあれば、「厳しさを覚悟していたがそれを超える厳しい現実が待っていた」のようなイメージのズレもあります。

新入社員がどのようなリアリティ・ショックに直面しているのかを把握し、それに応じたサポートを提供することが求められます。

入社前:プレオンボーディング

 リアリティ・ショックを抑えるために入社前にできることとして、「プレオンボーディング」があり、採用活動中と内定後に分けてご説明します。

(1)採用活動中のRJP(Realistic Job Preview:現実敵職務情報の事前提供)

 リアリティ・ショックによる早期離職を抑制するには、採用方法から見直すべきという考え方です。伝統的な採用として「いいところばかりを誇張して見せる」「大量に採用する」といった形式をとるところも多いですが、それゆえに現実の厳しい部分やネガティブな部分を伝えきれないこともよくあります。ネガティブ面を含めた正確な情報の事前提供が重要であり、その情報を伝えるのに最もふさわしい人物に提供してもらうことによって信頼性を担保することも求められます。ただ、「期待を抱かせるな!」と言ってるのではなく、むしろ期待を抱かせてください。入社する会社にほどんど期待を抱いていなかった新入社員とある程度期待していた新入社員とでは、期待を抱いていた方が組織への適応状態が良かったので、「正確な期待を抱かせる」ということが重要です。

(2)内定後:トランジション・スロープをかける

  今の若者は温室育ちの傾向があるため、厳しさのある社会との断絶を無くす必要があります。そこで私は内定から入社の期間をしっかりとデザインすることが大事であると考えています。例えば、配属部署で内定者インターンシップを実施したり、入社後に直面しそうな適応課題に関する知識を教授したりすることで、心理的レディネス(準備)を高めることができます。

NEWONEでは、エンゲージメント向上をはじめとした
人・組織の課題解決のヒントとなるセミナーを開催しています。

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入社後:オンボーディングの充実化

 プレオンボーディングを終えた後は入社後のオンボーディングに移りますが、5つに分けてご紹介していきます。

(1)配属の意義転換 「補充」から「育成」へ

 配属時は基本的に「補充」という観点で行われることが多いですが、「育成」という観点を忘れないことが重要です。初めての上司との関係性がその後の組織内キャリアを決定してしまうという研究もあるため、育成上手の上司のいる職場に新卒採用者を配属することが望ましいです。どの新入社員も良いキャリアのスタートを切れるよう、「配属ガチャ」という言葉がなくなるような配属の在り方を見直すことが求められています。

(2)効果的な研修のデザイン

 日本の新卒向け研修は充実していて、あまり心配はしていないのですが、必ず入れていただきたい要素が4つあります。

①適応課題と対処行動の理解促進

 新卒一括採用の日本において、誰もが直面するリアリティ・ショックにもかかわらず、誰もがその知識を有してないのはおかしな事態です。リアリティ・ショックとはどのようなもので、どのように対処すればいいのか、それを乗り越えることでどのような効果が臨めるのかを伝え、リアリティ・ショックを克服するための動機づけをすることが求められます。具体的には、新入社員同士で直面しているリアリティ・ショックについてディスカッションしたり、過去に克服して現在活躍している先輩社員に経験談を語ってもらう等の方法があります。

②プロアクティブ行動の理解促進

 プロアクティブ行動とは、「環境への適合を促進する行動」を意味します。「他者や環境だけの責任にはせず、自分自身で自分自身のことを環境に馴染ませることが大事である」と伝えつつ、「積極的に行動しなさい」という言い方は具体性がないため、どのような行動が組織への適応を促進してくれるのかを明確に伝えることが重要です。具体的なプロアクティブ行動として、「自己指向型行動」「他者指向型行動」「仕事指向型行動」があります。

なお、プロアクティブ行動には上司サポートが必要不可欠です。「上司からのサポートが受けられる」という安心感(心理的安全性)がプロアクティブ行動を喚起します。新入社員だけに伝えても上手くいかないですし、新入社員がプロアクティブ行動を取ろうとしても上司が「そんな勝手な行動はするな!」と言ってしまえば、もう2度と行動は起こさなくなってしまいます。新入社員だけでなく、環境に働きかける「協育」を目指すことが重要です。

③同期とのつながりや同期意識けの醸成

 同期の重要性として、愚痴や不満を言い合うことでストレスを発散できる、自分の成長を把握できる(ものさし効果)、切磋琢磨することでキャリアモチベーションになる(ライバル効果)、上司や同僚とは違う情報を得られる(インフォマート効果)、将来仕事をするうえで助けとなる(仕事サポート効果)などが期待できます。特別な存在になるのは間違いないので、同期同士の関係性を構築させられるような研修があると効果的でしょう。

④組織適応の2年目分岐

 組織への適応プロセスは入社1年目よりも2年目が分岐点になります。研究結果では、2年目の課題をうまく乗り越えられた場合は良い組織適応に、うまく乗り越えられない場合が早期離職に繋がることが示されています。新入社員研修は充実しているのに、2年目になったとたん研修が全くなくなる会社も多く、実際のインタビュー調査では「はしごを外された感覚」という発言が見られました。新入社員研修ほど充実させる必要はありませんが、半期に1回ずつ程度、同期で顔を合わせてコミュニケーションがとれる場を設けることが必要です。また、「2年目の憂鬱」診断をもとに継続的なサポートや環境整備も求められます。

(3)適応エージェントの提供(良いメンターを提供)

  メンターなどフォーマルな指導役を割り当てること自体は良いことだと思いますが、気をつけなければならない点が3つあります。

①誰をメンターにするか?

メンター選定の組織基準を明確に定める必要があります。「年齢が一番近いから」という理由で決まる会社が多いですが、それ以上に重要な要素として、「しっかりと面倒を見てくれるかどうか」というものがあります。メンター本人の育成モチベーションを確認し、いずれにせよ組織としてメンターに必要な要素をしっかりと考えることが求められます。

②メンターのモチベーションを高め、負担を取り除く

「君には将来的に管理職になってほしいと思っているから、若いうちからメンターとして育成スキルを身に着けてほしいんだ」等と組織として期待していることを伝えることで、メンターのモチベーションを高めることが重要です。また、メンターのサポート体制を構築することでメンタルヘルスを維持することも求められます。

③他の同僚の育成無関心をどう取り除くか

メンターをつけると他の同僚の方は「君のメンターはあの人だからあの人に聞いて」「メンターじゃない自分が関わってしまっては迷惑にならないかな」と育成に無関心になる危険性が考えられます。1人のメンターだけに役割を与えるのではなく、”皆で育てる”という職場風土を醸成することが重要です。具体的なポイントは次の項目で説明していきます。

(4)チーム育成

 メンター1人に負担を負わせるのではなく、サポートシェアリングの体制を整えること(仕事サポート、メンタルサポート、キャリアサポートなど複数人で役割分担する)が有益です。体制を整えるにあたって、会社全体で育成カルチャーを醸成することが重要です。育成無関心を取り除くために「育成会議」を開いたり、人事部がトップを巻き込んで人材育成の重要性を伝えてもらうなど、育成文化が根付くと人事部の負担が軽減されます。しかし、実際は現場が忙しくて育成が後手に回ってしまってチーム育成を実現するのは難しいという声も聞きます。「育成やってください」というだけでは協力してもらえないので、根拠を示すことが大切です。「あなたの部署の新人は〜と感じています」「あなたの育成力が組織の〜に影響を及ぼしています。このままだと会社の将来はなくなりますよ。」と根拠のあるデータを現場に見せて、「これは育成しないとまずいな」と腹落ちさせる必要があります。

 また、チームの捉え方を自部署だけでなく、他部署あるいは他社や外部機関(カウンセラーやコンサルタント、研究者など)の人間まで含め、柔軟な捉え方でサポート体制を構築することも有益です。昨今、自社だけでの学習では限界があるため、外部に協力を求める「越境サポーター」の存在も必要になってきます。組織内外含め、より広い空間で若年就業者を育てていく体制づくりが求められます。

(5)環境整備

 新入社員を成長させ、定着させたいのであれば、上司を育てる必要があります。管理職研修でマネジメントやリーダーシップだけでなく「育成」についても触れたり、上司同士で自身の育成について共有し合ったりすることで、育成上手な上司に育てることができます。また、採用担当者が現場と連携することも大切です。「その人のどこに魅力を感じて、どんな可能性に惹かれて採用したのか」という採用理由や「この人のここが絶対伸びると思うので、ぜひここは伸ばしてください」と育成方針を示してあげたりすることで、現場の人も育成しやすくなります。

 そして、新入社員を生き生きと働かせたければ、先輩社員を生き生きと働かせることが重要です。離職した若手社員の発言に多かったのが「先輩の疲れ切った顔を見て、自分もああなるのかと思ったらゾっとした」というものです。新入社員に生き生き働いてもらえるよう努力しても、現場に配属した時の上司や先輩が疲弊していては何の意味もありません。夢を持って生き生きと働くかっこいい先輩や上司を見て「自分も先輩みたいになりたい!」「この会社で働いてたら先輩みたいになれるんだ!」と思えたら、その人たちをロールモデルとして自ら努力するようになります。「生き生き連鎖」を創出することが、最も有益なオンボーディング施策であると考えています。

セミナーアンケートコメント(一部抜粋)

  • 2時間全部とても有意義な時間だった。 新人研修が終了したあとのオンボーディング期間中、チューターに対して、何を育成の軸としてお願いしたら良いかなど、迷いがあったが、今回の説明の中で明確になった部分があった。
  • メンター制度の再構築をしておりましたので、大変勉強になりました。また、新卒自身のプロアクティブ行動を促す情報提供や研修設計を取り入れて、リアリティ・ショックを低減する施策を実施したいと思います。
  • 新人だけでなく、2年目であったり、先輩・上司のサポートも大事な点認識でき大変勉強になりました。日頃忙しい管理職・先輩がメンターとして新入社員や若手とコミュニケーションを深めていくにはどうしたらよいのか考えてみたいと思います。
  • 一口に育成といっても様々な角度から手を入れる必要があろうかと思いますが、まずは部署、チーム全体で新卒採用者を丁寧に育てていく風土や気概を作っていけたらと感じています。
  • チームでの育成、仕事、教育の意味、背景の説明の重要性の再認識、新規配属者だけでなく、先輩、上司の教育も必要、共に成長、協育、先輩、上司の活き活き姿も重要。とても勉強になりました。有難うございました。
  • たくさんの学びをいただきました。ありがとうございました。新卒・キャリアのオンボーディングを単発的な施策として考えるのではなく、全社の人事施策として設計し実行する必要があることを理解しました。現在の私の業務が、人事戦略に基づいたものか見直すことから始めます。その後、「生き生き連鎖」を生むための施策を考えていきます。

登壇者の声

最初に提示された情報に強く影響される「初頭効果」という心理傾向が人にはありますが、社会人になって最初の働くことへの印象やその企業への捉え方は、今後の人生にとっても、この企業の活躍においても、とても重要です。

新入社員に対して、受け入れること自体を丁寧に行っている企業は多いかもしれませんが、自社でこれからもキャリアを歩んでいきたいと感じてもらったり、貢献からの手ごたえを得てもらったりするには、まだまだ伸びしろがあると思っております。今回の内容を踏まえて、少しでも”仕事が面白い”と感じる新入社員が増えることを願っています。

まとめ

 新入社員を定着させるには、研修だけに力を入れたり、新入社員だけにアプローチしていては成功しません。新入社員の状態を的確に捉えそれにどう対処するのかを考えながら、組織ぐるみで馴染ませていくことが重要です。「馴染んでください、成長してください」「馴染ませてください、育成してください」と伝えるだけでなく、「なぜそれが必要なのか?」と根拠を示していくことも、オンボーディングの成否を分ける大事な要素になるでしょう。

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