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手挙げ式研修のリアル──自発性は育成できるのか?

手挙げ式研修のリアル──自発性は育成できるのか?

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著者

山口 陽輝

著者

山口 陽輝

大学卒業後、株式会社NEWONEに入社。HRパートナーとして、新人・若手から管理職層までの研修設計や新人・若手領域を中心に、ファシリテーターも行う。
社内では、新入社員育成の責任者として社内の育成体系づくり・育成風土醸成を推進する傍ら、Unitのリーダーとしてもメンバー育成を行いながらプレイヤーとして活動している。

NEWONEでは、あらゆる企業のご希望やお悩みにあわせた
多種多様な研修を取り扱っております。

どんな研修があるか見てみる

近年、多くの企業で採用され始めている「手挙げ式研修」。

これは、社員の自発的な参加によって研修の受講者を決めるスタイルで、義務的な研修とは異なるアプローチとして注目されています。社員の主体性を尊重する姿勢が評価される一方で、運用面や本質的な育成の観点からは、慎重に導入すべきという声もあります。

今回は、手挙げ式研修のメリットとデメリットを整理し、その活用のヒントを考えていきます。

メリット:自発性と学習意欲の高い層が参加する

1. 学びのモチベーションが高い

手挙げ式は「自分から学びたいと思った人」が参加するため、受講者のモチベーションが高く、研修内での発言や行動も活発になります。講師からの問いかけに対して前向きな姿勢を持ち、ワークやディスカッションの質も高まりやすいです。

2. 成果につながりやすい

学びたい意思を持って参加しているため、研修内容を実務に活かす力も強く、学習後の行動変容が促進されやすくなります。人材開発の観点でも、投資対効果が見えやすくなります。

3. “自分で選んだ”という納得感が残る

「手を挙げた自分」が参加するという体験自体が、自己効力感や成長意識につながります。管理職候補者研修などの文脈では、意図的にこの仕組みを用いることで、「次のキャリアへの自覚」を醸成するきっかけになります。

デメリット:受けた方がいい人が受けない

1. 本当に必要な人が参加しない

最大の課題は、「必要な人ほど手を挙げない」問題です。例えば、マネジメントに悩んでいる管理職や、行動変容が求められるミドル層ほど、自分の課題を自覚していなかったり、学ぶことに抵抗を持っていたりします。その結果、現場の本質的な課題が放置されるリスクがあります。

2. “学びの分断”を生み出すリスク

参加者が「前向きな人」に偏るため、非参加者との間で意識差や温度差が生まれることがあります。ときに「あの人たちだけ特別扱いされている」といったネガティブな見られ方をされ、組織内での分断や嫉妬が発生するケースもあります。

NEWONEでは、エンゲージメント向上をはじめとした
人・組織の課題解決のヒントとなるセミナーを開催しています。

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マーケティング的思考で設計する──“参加のきっかけ”を用意する

ある企業では、手挙げ式研修に参加するメンバーが毎回固定化してしまうことに課題を感じていました。

「いつも手を挙げる“学び好きな人”しか集まらない」状況では、組織全体のスキル向上や行動変容にはつながりにくい。そこで同社は、“参加のハードルを下げる”仕掛けとして、1時間のショートウェビナーを導入しました。

このショートウェビナーは、興味喚起を目的とした入門編コンテンツで、「まず話を聞いてみよう」「学び始めてみよう」という気持ちを促す役割を担っています。そのうえで、本格的な研修(手挙げ式)への導線として設計することで、新しい層の参加者を引き込むことに成功しました。

このように、手挙げ式研修を成功させるには、「良いプログラムを作ること」だけでなく、「参加の動機をどう設計するか」というマーケティング的視点が不可欠です。

まとめ:手挙げ式研修を成功させる鍵は「目的の明確化」と「仕掛け」

手挙げ式研修には、自律的な学びを促すという大きな可能性があります。

しかし、それを真に機能させるためには、「誰にどんな行動変容を期待するのか」という目的設定が不可欠です。そのうえで、必要な層に届くような「仕掛け」や「声がけ」が求められます。

たとえば、

  • 上司からの推薦という形で背中を押す
  • 研修内容に“本人ごとの目的”を紐づける
  • 非参加者にも情報や学びの機会を還元する

といった仕掛けを加えることで、制度としての効果が高まります。

単なる「参加自由な仕組み」にとどまらず、企業の育成意図を丁寧にデザインした「戦略的手挙げ制」へと進化させることが、これからの人材開発には求められているように感じます。