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人的資本の情報開示から見る“推せる職場”のつくり方とは?

人的資本の情報開示から見る“推せる職場”のつくり方とは?

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著者

青木 美奈

著者

青木 美奈

株式会社NEWONEに新卒入社。研修をメインとして、人材育成・組織開発のHRパートナーとして従事。新入社員・若手から管理職まで幅広い階層の研修設計を支援。特に女性活躍、ダイバーシティ推進に注力している。社内では、メソッド記事の作成を推進している。

NEWONEでは、あらゆる企業のご希望やお悩みにあわせた
多種多様な研修を取り扱っております。

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人的資本の情報開示が開始されてから数年がたち、どのような組織・職場づくりをしていきたいのか、各社様で議論が進んでいるところではないでしょうか。

今回は、NEWONEが推進する「推せる職場」の作り方について、Unipos社の代表取締役田中氏をお招きして開催したパネルディスカッション形式セミナーのポイントを要約してご紹介します。

(※本内容は、2024年5月14日実施、Unipos社の田中氏登壇のセミナーの内容を参考にまとめたものです)

推せる職場とは?

NEWONEでは、「推せる職場」づくりを推進しています。「推せる職場」とは、エンゲージメントが高く、働きがいの高い職場であり、全ての企業で目指していく必要性があると考えています。

推せる職場に関する調査結果はこちら

エンゲージメントを高めるためには、エンゲージメントサイクルを回すことがポイントです。①ポジティブ感情、②自己決定感、③成長・貢献実感のサイクルを回すことで、エンゲージメントが向上していきます。

エンゲージメントサイクルの詳細はこちら

なぜ今、人的資本経営なのか?

社会環境の変化の激しい令和の日本企業は以下のような環境に置かれています。

  • 未曾有の人口減社会への突入
  • 無形資産(人的資本含む)を活用できた企業が評価される
  • 傷んだ組織風土、言い出せない社員が増え、不正の温床になりやすい環境

令和の日本企業には、激しい社会環境の変化に対応するため、人的資本経営が求められています。

人的資本経営とは、個人の持つ人的資本(スキル・ノウハウ)を十分に発揮するための土台を再構築し、サステイナブルな競争力を創出する経営のことです。

人的資本とは何か、を考える大前提として、

  • 転職、副業もできる現代においては、人的資本は会社のものという意識から、「個人が所有するもの」という意識に変わってきている
  • 人材流動化が進んでいるからころ、人的資本を活用する企業の土台が固まっていない場合、「この会社じゃなくてもいいや」、と思う人が増えてきている

このような社会の変化を認識することが重要です。

昭和型の経営では、前例やセオリーに着実に実行することが成果につながっていたため、「戦略」を着実に実行していくことが重要でした。しかし、令和型の経営では、時代変化が激しく不安定な時代のなか、中期経営計画の達成やパーパスを実現するための「組織的遂行能力」(組織で勝っていく力)の強化が重要です。

組織的遂行能力の向上の文脈で、近年注目されているのが、インクルージョンです。社員が十分に活躍できる土壌があることで、組織的遂行能力が高まるため、インクルージョン度合いを可視化する企業が海外を中心に増えてきています。インクルージョンの概念は、集団への帰属意識、集団での自分らしさの高低で4象限に分けられ、帰属意識も自分らしさも高い状態が「インクルージョン」だと定義されます。

日本企業の多くでは、帰属意識が高く、自分らしさが低いアシミレーション(同質化)の状態であると考えられており、帰属意識の向上ではなく、自分らしさを発揮することへの承認や賞賛を増やすことが求められています。

人的資本経営の難しさ

人的資本の情報開示を通して、各社様では3つのズレが生じやすいです。

ズレ① 株主と会社(社員)のズレ:株主は課題解決による価値創造ストーリーを知りたいが 、会社は「我が社最高 」ストーリーを求めている

ズレ② 経営戦略と人事戦略のズレ:経営戦略と人事戦略が分離している or 中期経営計画のストーリーと乖離している施策の紹介が中心

ズレ③ 組織の実態と会社のズレ:社員は「我が社最高 」ストーリーと実態を照らし、「 会社は実態をわかってない」と幻滅

人的資本経営を社内で温度感高く推進していくためには、変わっている手ごたえ感を掴むことも大切です。人的資本の活用状況において、劇的な変化を生じさせることは難しいからこそ、KGIだけでなくKPIを開示することで変化を見えやすくすることがポイントです。

例えば、女性管理職比率を1%増やす、エンゲージメントの全体スコアを1向上させるには、各社様で時間も労力もかかります。代わりに、管理職登用意欲調査を実施し、意欲の変化をデータで比較したり、エンゲージメントの全体スコアではなく、対話の機会が増えたと感じるか、等のKPIで数値目標を立てる、変化を追うことができます。

細かいKPIを置くことで、劇的な変化を求めるだけでなく、自分たちが注力していることが明確になります。それに加えて、数値の変化が見えやすくなるため、各社人事様がお困り感を持ちやすい「施策の効果」を可視化しやすく、投資とリターンを社内で説明しやすくなります。

NEWONEでは、エンゲージメント向上をはじめとした
人・組織の課題解決のヒントとなるセミナーを開催しています。

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パネルディスカッションで上がった「人的資本の情報開示」、「推せる職場づくり」のポイント

Q. 人的資本の情報開示ではどんなところが見られている?

田中氏:社員主語で「想い」を情報開示することが大切です。人的資本の開示情報では、組織として変わっていく力と、実際に変わっているかが見られます。

人的資本経営の開示項目は数年に1度入れ替えても良いと思いますが、変化をしっかり見せていくためにはKGIではなく、KPIで開示することが重要です。

Q. 人的「資本」だからこそ、先に投資が必要なのでは?

田中氏:投資をする際にも、意図を持って設計し、投資をしていくことが重要です。

例えば、自社の海外売上比率が10%しかないにもかかわらず、全社員に一律TOEICのスコア900点の能力を求めることは、少しズレてしまっている感じがします。

投資をする際にも意図を持つことが大切ですね。

Q. 人的資本の情報開示が上手くいっている会社の特徴は?

田中氏:人的資本の情報開示に限らず、変化が出来る会社、難しい会社の特徴があります。

現場で「うちの会社も捨てたものじゃない」という声が出ると、会社は変わってきます。

社員の企業に対する帰属意識等も必要ですが、社員が「会社は自分のことを考えてくれている」、と感じられると人的資本の情報開示で開示している結果の好転化につながります。

日本企業では、他国と比較して帰属意識が元々強い人が多いです。今後は、帰属意識を高めていくことより、「自分のために会社はちゃんと考えてくれている」という実感が生まれるような施策を打つことが重要です。

Q. 推せる職場を作るために、人事・経営陣にできることは?

田中氏:データを一緒に見て、組織の現状に対する解像度を上げていくことができると良いなと思います。

例えば、サクセッションプランは立ており、課長層以上は育っていくが、課長層以前の若手が課長になりたくない、と言っている状況がある場合は、10年後のサクセッションプランが上手くいかなくなってしまいますよね。

データを分析し、1人ひとりが組織状況の解像度を上げていく事が重要です。

上林)階層で絞ってデータを見ると、その階層特有の課題感等が見つかることもあるかもしれませんから、その点でも有効ですよね。

Q. 働きがいを高めていく動きも最近は盛り上がっています。そこについてはどう思われるか?

田中氏:働きがい向上においては、インクルージョンスコアの開示も重要になってきます。

インクルージョンスコアを測るために、「自分は会社から必要とされていると感じるか」、「自分のありたい姿を達成するための要素が社内にあると感じられているか」等の質問を実施し、データをみることで、自社の現状を可視化してみることも必要ですね。

多くの日本企業では、帰属意識はあるが、自分らしさを尊重しながら=自分の能力を十分発揮しながら働く事が難しいケースが多くあります。どんな状況にある人にとっても、自分らしくあることを認めてあげる、理的安全性の概念を大きめにくくっているイメージが近いですかね。

Q. 働きがいとインクルージョンの関係性は?

田中氏:インクルージョンが高まることで働きがいが高まる可能性は高いと思います。

インクルージョンの推進と、働きがい創出の両軸で施策を進めるほうが有効性は高いと思います。

上林:会社のために、兵隊のように高い帰属意識を持って働いていた昭和型の経営から、自分らしく意志を持って働いていく、インクルージョンの考え方に転換しつつある、ということですかね。

田中氏:意志を持って働くことを推奨するインクルージョンは、働きがいを向上する要素の1つではありそうですね。

Q. 近年、優しすぎる、ゆるい職場になり、若者の離職が増えていると言われていますが、ゆるい職場になってしまう会社の特徴は?

田中氏:社員が周囲に気を遣い過ぎてしまい、「これを言ってはいけない」、と感じて遠慮する等、心理的安全性の担保ができなくなってしまう、言い換えると、「遠慮する職場」はゆるい職場になりがちだと感じます。

上林:ハラスメントをしたくないから踏み込めない、という時もあるかと思いますが、そういった場合はどう対処するのが良いんでしょうか?

田中氏:最近は、効率化を重視するために、空気を読み過ぎて、遠慮しすぎてしまっている場合もあるかもしれませんね。もう少し余裕のある働き方ができて、自分の意見を好きに言える場面をしっかりとセットし、話せる場を調整できると良いかもしれません。

Q. 良い職場を作る一貫として、「挑戦する風土」を作るためのエッセンスは?

田中氏:「挑戦する風土」をマイルドに言うと、手挙げの量だと考えます。

社長は上層部は「挑戦せよ」、と言っているけど、多くの若手は、「戦に挑むってことですよね?怖い…」と感じて一歩踏み出せない。

そこで、「挑戦せよ」と発信するのではなく、もっとカジュアルな挑戦の数を増やし、現状の手挙げの量を正しくとらえることが重要です。

「挑戦」は漠然としていて、怖い、行動しにくいと感じられがちです。手挙げ等の分かりやすい行動を支援し、挑戦するとはどのような行動なのか、大小問わずに、挑戦しやすくすることが重要です。

Q. 改めて、良い職場、魅力的な職場とは?

田中氏:人的資本経営のズレが起こらないようにすることが大切ですね。

経営者が言っていることと会社の現状が違うことで、社員の幻滅を生む原因にもなります。

会社の中で、色々なバランスがとれている状態が良い職場の前提条件であり、魅力的な職場と言えるのではないでしょうか。人的資本経営のズレが起こらないようにするために、関係者同士で対話をする、サーベイ結果等でズレが可視化された時にアクションすることも重要です。

Q. ズレが起こりにくい会社の条件は?

田中氏:理想と現状のギャップである課題を、社会に対しても、社内に対しても発信できているかどうかがポイントです。

課題をしっかりと認識していて、そのうえで今後改善していきたい姿勢を見せていくことが重要です。経営層・人事から課題認識を伝えることで、社内でのコミュニケーションの円滑化にもつながります。

課題先行型での組織運営をするためには、エンゲージメントサーベイの結果等の気になる箇所を経営層とともにしっかり対話することが必要です。現状や要因を深く見ていく際に、人事さん、経営層の認識がズレていることは往々にしてあるため、詳細に見ていくことですね。

Q. 良い職場を作っていく、カルチャーを変えていく際のポイントは?

田中氏:キーワードは、全社参加型です。
世の中が変わるタイミングは、みんなが一生懸命やり始めたタイミングです。ガラケーからスマホに主流が変わっていった時も、率先して使い始めたから徐々に浸透していったかと思います。

変化を起こす際には、一部の人が頑張るのではなく、全員でなんとかしよう、と一致団結することが大切です。

一部の人が頑張るのは改善にしかならないため、カルチャーを変えるためには全社参加型が効果的です。特に、現在は不安定な世の中ですし、色んな人の能力を最大限活用していく意識が重要です。

全社参加型を推進する際のポイントは3つです。

①現場を巻き込む際には、人事部からではなく、現場でリーダーシップ持っている人に「会社を変えてほしい」とオファーし、賛同を得る、もしくはアクションを起こすフォロワー作りをする

②トップがしっかり「変わりたい」と発信し続ける

③変化を起こそうと行動している人に対して、後ろ指を刺すことがないよう、トップ層が行動している人を応援し続ける

変化を起こす際には、綺麗ごとを並べるより、「変わりたい、なぜならば〇〇」を発信し続けられるだけの施策に対する必要性を信じる気持ち、熱い気持ちを伝え、共感する人を増やすことが大切です。

人的資本経営が盛り上がっている「今」だからこそできることがあります。今じゃないとできないこともあるからこそ、

色々な知恵、やり方を駆使しながら、我々の時代から職場を変えていきましょう!

セミナーアンケートコメント(一部抜粋)

・いまKGIとKPIを間違えてるなと気づきました。また、いまだからやる理由に納得しました
・冒頭の”優しすぎる職場”が、そのまま現状を表しています・・・
・インクルージョンという考え方が理解できたのは収穫でした
・インクルージョンスコアの考え方がとても参考になりました。パーパス経営を進め数年たちましたが、エンゲージメントの観点とインクルージョンの観点とをクロスさせて社員の状況をみていけると、変化にも気が付きやすくなるのではないか・・・と感じました。このあたりをもっと勉強します。
・人的資本経営における人の捉え方、KPIとKGI、自分らしさと自分の能力が発揮できている等、参考になるお話がいっぱいでした
・人的資本開示、人的資本KPIに対する正しい捉え方・取り組み方について、他社事例も踏まえてより深く学ぶことが出来た

登壇者の声

働き方改革のあたりから過重労働の削減や休暇の取りやすさが推進され、働きやすい職場になってきたと思いますが、一方で、業績向上が重要な役割の企業としてはもどかしさを感じているシーンをよく見ます。

本セミナーでは、働きやすさと共に働きがいをどう高めるかを追求したく開催しましたが、「帰属意識」に「自分らしさ」を加えたインクルージョン、変わりにくいKGIだけでなく先行指標のKPIを重視する、漠然と「挑戦」ならば「手挙げ数」とする、全員参加型にしていくことが大事、など、非常に示唆に富む内容であり、今後の各社の人事戦略に寄与すればと強く思っています。

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