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企業が従業員のキャリア支援を行う意味と方法 ~第1回エンゲージメントとキャリア自律~

企業が従業員のキャリア支援を行う意味と方法 ~第1回エンゲージメントとキャリア自律~

<a href=小野寺 慎平" width="104" height="104">

大学卒業後、(株)シェイクに入社。企業の人材育成や組織開発のコンサルティングを行う。2018年1月(株)NEWONEに参画。商品開発・マーケティング、組織開発、研修のファシリテーターなどで活動する傍ら、「仕事そのものが面白いと思う20代を増やす」をテーマに20代向けの能力開発の新規事業を立ち上げる。

NEWONEでは、あらゆる企業のご希望やお悩みにあわせた
多種多様な研修を取り扱っております。

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はじめに

終身雇用の崩壊が告げられたしばらくたちます。これは、従来の企業と従業員の関係性の変化を意味しています。人材流動化時代であり、パラレルキャリア、マルチキャリアが当たり前な現代において、組織と個人の関係性も一人ひとりのキャリア観もどんどん変化しています。
このような変化を踏まえ、「企業が従業員のキャリア支援を行う意味と方法」ということについて、いくつかの観点から考えていきたいと思います。

まず初回は、エンゲージメントとキャリア自律の関係から企業がキャリア支援を行う意味についてひも解いていきます。

NEWONEでは、エンゲージメント向上をはじめとした
人・組織の課題解決のヒントとなるセミナーを開催しています。

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これからの時代に求められる組織と人材との関係性

社会の中でキャリアを築く時代

キャリア研修をはじめとした、従業員のキャリア開発施策に力を入れる企業が増えています。キャリア研修は、これまでも行われてきた企業研修のメインテーマの一つですが、昨今、最も重要度が高まり、かつ実施の難しさが増しているテーマの一つでもあります。これまで企業がキャリア研修を行ってきた目的は、従業員の組織内でのキャリア自律を促すことで、組織内での主体性を高めることにありました。しかし現代は、人生100年時代とも言われるように職業人生が長期化し、キャリア・トランジションを経験する働き手が増えていくことが予測されている時代であり、また、経済界のリーダーが終身雇用の終焉を告げる時代でもあります。こういった社会の変化から、働く個人は、新卒で入社した組織の中で自律するだけでなく、社会の中でキャリア自律することが求められています。

実際に、多くの働く個人、とくに若手従業員は組織内ではなく、社会の中でキャリア自律することが当たり前だと考えていると感じています。私は、若手従業員の仕事観に合った人材開発を行うことをミッションに多くの企業の若手育成担当の方々と研修を企画し、若手従業員の方々に研修を実施させて頂いてきました。研修の中では「ファーストキャリアでは~」「副業で~」など自社以外でのキャリアを想定した発言は当たり前に聞かれますし、若手育成担当の方々からも役割期待を押し付けるような研修ではなく、本人のキャリアと自社で働くことをつなげる機会をつくってほしい、とご依頼頂くことが増えており、「社会の中でのキャリア自律」を前提とした個人の意識、育成の在り方に変化しています。

選ばれる組織づくり

また、経団連が2020年3月に公開したレポート「Society5.0 時代を切り開く人材の育成」においては、次のような提言がされています。”企業は、働き手から選ばれる立場へと変わってきていることを認識し、働き手から選ばれる魅力を高める必要がある。人材が育つ組織として自社をアピールできなければ、優れた人材を採用し、定着させることは難しくなる。他方、働き手には、自身のキャリアビジョンを描き、主体的に社内外における自身の価値を磨いていく意識と行動力を持つことが求められる”。
つまり個人が社会の中でキャリア自律することが重要なように、企業も個人から選ばれる組織づくりが必要ということです。

このように組織と個人の関係性は、これまでの組織に個人が従属する関係性から、組織と個人が対等に選び合う関係性に変わってきているのです。

組織内でのキャリア形成を促すために、注意したいポイント

企業がキャリア自律を促す意味

社会の中でキャリアを築くことが前提な中、キャリア研修を行うと、自社以外でのキャリアを考え始める従業員が増え離職につながるのではないか、という懸念を感じる人材開発担当の方は多くいるかと思います。こういったリスクが想定される中で、なぜ今多くの企業がキャリア研修に力を入れているのでしょうか。

世代ごとに具体的な目的は異なりますが、共通する目的は、従業員のエンゲージメントを高めるためです。エンゲージメントとは組織と従業員間の関係性を表す指標であり、エンゲージメントが高いとは、組織と従業員が良好な関係を築けている状態を指します。社会の中でキャリアを築くことが当たり前の時代、言い換えると人材流動化時代では、自社で働く以外にも多くの選択肢があります。だからこそ、いかに従業員を惹きつけ良好な関係性を築きエンゲージメントを高めることができるかが、これまで以上に重視されてきています。そして、このエンゲージメントは組織側が制度を整えたり、良いマネジメントをするだけでは不十分で、個人のキャリア自律が不可欠です。

なぜならエンゲージメントは組織と個人の双方向の結びつきであるため、個人がキャリアに何を求めているのかを理解し、キャリア自律していなければ、自組織で主体的に貢献したいという意欲にはつながりません。さらに、キャリア自律していないと、むしろ離職につながる可能性もあります。自身が仕事に何を求めているのかが不明確だと、自職場でできる経験や機会に魅力が感じづらいくなり、不安や不満がたまり、隣の芝生が青く見えてきて、リセットするように離職するという可能性もあります。キャリア自律を促すことはエンゲージメント向上に向けて不可欠なのです。

また2018年に、ISO3014において人的資本の情報開示のガイドラインが示され、日本でも内閣が人的資本へ投資強化を明言したことで、人材を経営資本と捉える「人的資本」の最大化が注目されています。人的資本の最大化を見据えたときに、企業は「キャリア自律していないため離職はしないが、エンゲージメントが低い人材」を育成するのではなく、「キャリア自律しているため転職しようと思えばできるが、エンゲージメントが高い人材」を育成することがより重要になります。

受け皿を用意する

一方で、キャリア自律を促すだけでエンゲージメントが高まるか、というとそうではありません。上述の通り、個人と組織は相互に選び合う関係であるため、キャリア自律を促すことに加えて、キャリア自律した従業員にとって魅力的な組織づくりを行うことが不可欠です(図1)。例えば若手従業員にキャリア自律を促したとしても、向こう数年同じ仕事をするしかなかったり、上司からいいから「目の前の仕事を頑張って」と言われてしまう状況だとむしろエンゲージメントを下げてしまいかねません。公募制度を整備したり管理職向けにキャリア支援力を強化する研修を実施するなど、キャリア研修後の受け皿を用意することが重要です。人材開発担当の方からよく「キャリア開発はどこから始めるべきか」とご相談頂きますが、理想はこの受け皿の整備をはじめ、キャリア研修はこの受け皿の有効性に気づき活用を促す位置づけとできると、キャリア研修がエンゲージメント向上につながりやすく効果的です。

今回は、エンゲージメントとキャリア自律について考えていきましたが、次回は具体的にキャリア研修のポイントについて考えていきます。